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二人きりの時は /土銀

 銀時は一人自分の机の椅子に座り、背もたれに思い切り体を預け天井を仰いでいた。

「あ〜…なんだろうなぁ…」

 部屋には時計の音だけが響いている。
 神楽は今日、お妙に呼ばれ志村家に泊まりに行っている。銀時も誘われはしたが、たまには一人でゆっくりしたいからと家に残った。
 なのに、何故か…

「神楽もいねぇし、いろいろやろーと思ってたのによー。なぁんかやる気でねぇなぁ…」

 夜、男一人。
 少女が一緒に住んでいたのではなかなか出来ないことがある。その楽しみを満喫しようと思っていたはずなのにどうにも今はそんな気分ではない。
 楽しみにしていたはずなのに何故今自分がこんな気持ちでいるのか銀時自身も不思議だった。

「なんだぁ?俺、今日なんか変なもんでも食ったっけ?」

 そんな考えを巡らせているとインターフォンが鳴った。

 ピンポーン!

「おいおい、誰だよこんな時間によぉ」

 頭をかきながら気だるそうに玄関に近づいて行くと聞き覚えのある声が聞こえた。

「おい、さっさと開けねーとしょっぴくぞ」
「!?」

 銀時は急いで玄関の戸を開けた。
 そこには真選組副長・土方十四郎が立っていた。

「よぉ」
「てめーこんな時間に何しにきたぁぁ!」
「…うるせぇ。開口一番それかよ」
「うるせー!バカにすんなぁぁ!」
「はあ?」

「うるせぇー!てめぇコラ、今何時だと思ってんだぁ!静かにしねぇかダメ人間!」

 銀時とは対照的に冷静に話す土方と、銀時の大声に苦情を言うお登勢の声が周辺に響いた。

 お登勢に更に言い返し、銀時とお登勢の言い合いが続く中、土方はそんなことはお構いなしと家の中を覗く。
 そこには銀時のブーツがあるだけだった。

「おい、チャイナいねーのか?」
「あ゙ぁ?神楽なら新八んとこ泊まりに行ってて今日はいねーよ!」
「…じゃあ上がるぞ」
「ああ、ってちょ、大串くん!?」

 神楽がいないことを確認すると土方はそのまま万事屋へと上がり込んだ。
 銀時はお登勢との言い合いを切り上げて土方を追う。

 廊下を歩きながら、勝手に上がるなと言うが土方に、お前、いいっていっただろと言い返されてしまう。確かに自分が言ったことだけになかなか言い返すことが出来ない。
 それはお前あれだよ、なんて言っているうちに土方はソファに座っていた。そして、持ってきた酒をテーブルに置き、グラスを持ってこいという仕草を銀時に向かってしている。

「飲もうぜ」
「お前…。あのなぁ、俺は今日、神楽もいねーしAVとか満喫しようと思ってたの。さっさと帰れよ」
「…の割にはAVが1本もねーんだが」
「うるせーな、だから今から…」
「見るんじゃなくて実践の方がいいんじゃねーの?」
「はいぃー!?バカですかぁ!?そんな女いたら苦労し」

 不意に腕を掴まれ引っ張られた、組み倒された…目の前には綺麗に整った土方の顔がある。
 土方は銀時をソファに押さえつけたまま言う。

「だから、俺と」

 銀時は一瞬ドキッとする。
 が、すぐにあほかぁぁ!と土方を殴り飛ばし起き上がる。

「あほなこと言ってんじゃねーよ、この変態」
「んだよ、じゃあ見ろよAV。見ててやるから」
「なんでお前と見なきゃならねーのよ」
「俺は別に見ねーよ」
「いや今、見るって言ったじゃん」
「俺はお前を見るっつたんだよ」
「なんのプレイだぁー!」

 ほら、持ってこいよと土方に促されるが、銀時は動かない。土方と見るのが嫌とか、土方のおかしなプレイが嫌とか、それ以前に銀時はやはり今、AVなど見る気分ではなかった。

 自分でもよく分からない。でも、さっきよりは何か少し満たされているような気はする。
 いったい何なのか…

「…お前、そんなに俺に会いたかったのか」
「何言って」
「AV見る気分じゃねーんだろ?」
「な、何言ってんのお前」

 土方にはそんなこと一言も言っていないのに、むしろ悟られないようにしていたはずなのに図星を突かれ銀時はしどろもどろになる。
 土方は煙草を吸いながら続ける。

「玄関で、意味不明にバカにすんなとか言ってたしな」
「お前、あれは、あれだよ、ただの勢いっつーか。…つーかなんでそんなの覚えてんの…」
「これでも警察なもんで」
「へ、へぇ〜」

 変な汗をかきながらも銀時は少し考えた。
 俺がそんな気分じゃねーのは、女より土方(コイツ)を求めてたからってこと?だとすればちょっと納得い…いやいやいや、ないないない、それはない、それは嫌、それは認めない、それはダメだろ!
 そうして銀時が一人で青くなっている間に煙草を吸い終えた土方が銀時へと歩み寄る。

「認めろよ」
「誰が」
「俺はお前とこうして二人で会えて嬉しいぜ」
「…お前、よくそういうこと言えるな」

 見つめ合い唇を重ね合わせる二人。
 銀時は少しどうでもよくなっていた。
 理由なんてともかく、今はAVを見る気分じゃないことは事実で、こうして二人きりで会うことが久しぶりなのも事実で、うだうだ言っていても夜は更けていく…だったら今、この土方との時間を満喫してもいいのではないかと。
 別に喜んでるわけじゃねーけどな、なんて思いながらではあるが、銀時は久しぶりの二人きりの時間を満喫した。


 今夜ここへ訪ねてきたのは真選組副長・土方十四郎ではなく…

 坂田銀時の恋人・土方十四郎―――







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あとがき



あきゅろす。
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