待つ時間 /ZC
梅雨の湿気がまだ少し残るそんな初夏の事、だったかな…。
* * *
ザックスとの待ち合わせ。別に何処かへ遊びに行くとか食事に行くとかそういう約束をしたわけじゃない。ただ、少し会う。そんな待ち合わせだった。
ここ暫くどちらも任務続きで会う時間はなく、顔を合わせることも殆どなかった。
そこへザックスが電話をくれた。
直接話したわけではない。留守電にメッセージが残っていた。
任務の合間にかけてきたのか電話の最中に同僚に呼ばれたりして慌ただしいメッセージだったけれど、思い立ったら直ぐに行動に移すザックスらしいな、と俺は思った。
約束の時間は7時。今は7時20分前。
俺は1人待ち合わせ場所の公園のブランコの上にいた。
ここはシーソーとブランコがあるだけの寂れた静かな公園で、俺以外は誰もいない。
空には星の輝きが少しずつ現れてきていた。
ザックスはまだ来ない。
きっと血相変えて走ってくるんだろうな、なんて想像したら笑いが込み上げてきた。
湿気の残る暑さに汗をかき少し身体はベタついていたけれど、俺は欝陶しさを少しも感じてはいなかった。
そして時間は流れ、時刻は7時40分になろうとしていた。
「クラウドぉ!!」
誰かが俺を呼んだ。
声の方を見ると男が1人こちらへ駆けて来る。それは確認せずとも直ぐにザックスだと分かった。
俺は思った通りに血相を変えて走って来るザックスを迎える為にブランコから立ち上がった。
全力疾走で走って来たザックスは、俺の前までたどり着くと膝に手をかけ下を向きながら切らせた息を整えていた。
全身に汗を書いているのが分かる。
そんなザックスに俺は少し嫌味を言ってみる。
「40分の遅刻」
するとザックスは顔を上げ、ごめん!と謝ると言い訳を始めた。
俺は黙ってそれを聞く。
言い訳なんてしなくたって本当は怒ってなんかいない。事情があるのなんて分かってる。ただ、任務を熟してきたあとで疲れているはずなのに必死に走って来てくれた事が嬉しくて少しからかってみただけ。怒りなんて何処にもない。
嬉しさと一緒に愛しさも込み上げてきて俺はザックスに抱き着いた。
「!? え?ク、クラウド?」
ザックスは状況が飲み込めず少し混乱しているようだった。
それもそうだろう、俺は普段自分からこんな事はしないし、それに今は約束の時間に遅れて来たことを言い訳している最中だったはずなのに、どうしてこうなるのかザックスには訳が分からなかっただろう。
だけど俺は胸がいっぱいで自然とザックスに抱き着いていた。
疲れているはずなのに必死に走って来てくれたこと、会いたいと思っていたけれど言えずにいた俺の気持ちを分かってくれたように会おうと言ってくれたこと、声が聞けたこと、今目の前にいること…全てが愛しかった。
ザックスが来るまでにいろんな事を考えた。たくさんザックスの事を考えた。そうしたらすごく幸せな気持ちになって、ベタつく汗も過ぎ行く時間も気になんてならなかった。
任務で何かあったなんて事も考えなかった。確証なんて何処にもないけど、ザックスは元気だって感じていたから。
「クラウド?あのさ、嬉しいんだけど、俺今汗まみれだし…」
「ザックス…」
「ん?」
「ありがとう」
そう言ってザックスを見上げた俺はきっとザックスにしか見せない笑顔をしていたと思う。
そんな俺を見たザックスは何も言わずに俺を抱きしめて、そして優しくキスをした。
そうしてもう一度抱きしめられた。
「クラウド…」
「うん?」
「…アイスでも買いに行こうか?」
――梅雨の湿気が残る、そんな初夏の事だった。
fin.
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