それはまだ… /ZC
「あ。そうだ、クラウド。いいとこ連れてってやるよ」
突然思い付いたかのように発言されたその言葉によって、クラウドの今日これからの予定は全て崩れた。
今日は予定があると言うクラウドの話しなんてお構いなしに、ザックスはクラウドの腕を引き、今来た道を走り戻っていく。
走りながら、何処へ行くのか聞いてもはぐらかされるだけで、ザックスは答えてはくれなかった。
しかし、たいして走らずして走りは止んだ…。
その場を見て、クラウドは息を整えると怪訝そうな様子で言葉を発した。
「ここ、正面入口じゃないか」
そこは、2人が先ほど今日の仕事を終え、後にしてきた神羅ビルの前だった。
クラウドは訳が分からなかった。神羅ビルがいい所?確かに高層ビルで、施設も充実していて良い所なのかもしれないが、自分は神羅の社員でごく普通に出入りしている場所だ。現に数十分前までこのビルの中にいたのだから。
ザックスはクラウドの腕をまた掴むと、神羅ビルの中へと入って行った。
受付嬢にヒラヒラと手を振りながらエレベーターに向かい歩くザックス。エレベーターに乗ると、階数ボタンを押す寸前で、ザックスは口を開いた。
「社長室に行くぜ、クラウド」
「…は?」
ドアが閉まると、当たり前だがクラウドから罵声が飛んできた。そのクラウドを宥めるために説明をしてやった。
最上階までは行くが社長室までは行かない、その手前にまずは用があるのだと。因みに、社長は今日、外出していて居ないと言うことも。
最上階へ着くと、社長室へと曲がる1つ手前の通路でザックスは足を止めた。
ほんの少しの間ザックスは何か考えているようだった。そんな中、クラウドは気が利じゃなく、落ち着かない様子で周りを気にしていた。
「…。よし」
ゴトンッ
気が付くとクラウドは外にいた。
あまりに突然のことで、何が起きたのか訳が分からずに呆(ほう)けているクラウドにザックスが声を掛けた。
「ごめんな、ビックリしたろ。今日は社長いないから警備がいつもより薄いっつても、どうしても物音はしちまうからな、2人いっきに上がってきた方がいいと思ってさ。でも、担ぐなんて言ったらクラウド嫌がると思ってさ、いきなりの決行でした」
説明するザックスの話しを聞きながら、クラウドはまず、ここが何なのかを聞いた。
そこは、人が2、3人居られる程度のスペースがあり、そしてそこからは伍番街から八番街が一望できた。
ここは、ザックスが見つけた秘密の場所で、誰も人が来ないからゆっくりできる場所だという。尤(もっと)も、居心地のいいように幾つか改造が施されてはいるのだが。
そして、入ってきた場所は、改造の延長で、中と通じるようにできないかといろいろやった結果、社長室へと続く廊下の壁にあるトラップや隠し武器の扉の1ヶ所だということも聞かされた。
「どうだ?クラウド」
「…いいとこだな」
「だろ?お前も高いとこ好きだもんな」
「風に当たるのが好きなんだ。高い所だとよく風が当たるから、空も近いし…」
クラウドの綻んだ顔を見てザックスは嬉しそうに笑った。
そして暫くすると、ザックスが優しい口調で話しはじめた。
「…あのさ、クラウド。心苦しく嘘書くとか、ただ大丈夫だからとか書くよりもさ、こうやって本当にあった楽しかったことや嬉しかったことを手紙に書いて送ってやった方がおふくろさん安心すると思うぜ」
「!?」
「余計なことかもしれないけど…」
「…ガト」
「ん?」
「アリ…ガト。次からはそういうことも書いてみるよ…」
恥ずかしそうに俯きながら話すクラウドに、そうか、と一言かけてザックスはクラウドの頭をクシャクシャと撫でてやった。
クラウドは小さな声で、うん、と頷いた。
それは、2人の絆が深まる出来事のほんの些細な一端。
それはまだ…恋ではなく…
fin.
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