空にうつるもの
2
この時の母の言葉は、今でも俺の中に在る。
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《あのね、蓮李。人と関わる時に大切なのは…、その人のありのままを見ることよ。
人の噂、格好や容姿、聞いたり見たりしただけのものは、案外その人のことが、分からないものなのよ。》
《どうして…?
お母さん………。》
《そうね……。例えば、噂の中には、他の誰かが嘘をついていて、広がったものがあるの。
それこそ、あることないこと…。
全てが嘘とは限らないけど、全てを簡単に真実ととらえるのは危険だわ。それは分かる?》
《うん。なんとなく。》
《そして、第一印象が怖そうな人でも、人を思いやれるとっても優しい人かもしれないわ。
人の良さそうな、そんな顔で近づいて来て……、平気で人を傷つける人もいるのよ。
これは例え話だけど、見た目だけではどんな人か分からないってことよ。
それに、容姿は生まれた時からのものでしょう。多少の顔つきが変わったとしても、その顔は一生ものよ。
それだけでは、相手の人生や生き方、考え方が分からないとは思わない?蓮李。》
《……うん。
それだけだと、分かんない気がする。》
《ふふ。……いい子ね、蓮李。
いい?全ての人が、いい人とは限らないわ。
姿・形の上辺だけを見ずに、まず相手のなかみを見極めなさい。
それにね、いいところも悪いところも、両方持っているのが人間よ。
完ぺきな人間なんてこの世の中にはいないのよ。
全ての人を信じろとは言わないから。
蓮李自身の目から、その人を見極めた上で、あなたが信じたいと思える人を信じなさい。
その人の、いいところも悪いところも知った上で、ありのままのを受け入れてみせなさい。…………蓮李。》
母の言霊の一つ一つが、心に静かに染み込んできて……、素直に受け入れることができる………。
頭を優しく撫でてくれる母の手は、温かかった。
[*欠月][満月#]
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