パラドックス(パニパレ) *パニパレ 白原と亜貴 *仄甘 恋人設定 *オチなんてなーいよ 〜〜〜〜〜〜 「君が好きだよ」 そう言って微笑んだ白原くんの眼差しは、とても優しい。 日溜まり、密室、二人きり。 まるで少女漫画のように甘い台詞とシチュエーション。ましてや、相手が自分の好きな人なら尚更、その糖度も増すというもの。 …ただ、ここが教室内で今が授業直前であるという要素を除けば、の話だけれど。 「し、白原くん…!」 上擦る声のままで、彼の名を呼ぶ。もちろんそれは羞恥もあるけれど、大方焦りから出た声色だ。 目前には整った顔、背中には冷たい壁。逃げ道を塞ぐように私を囲う、しなやかな腕。どう足掻いても逃げられない。 ───否。 むしろ、逃げるという選択肢すら私には与えられていないのだろう。 何故こんな状況になったのか。それは、当の本人である私でさえも全く分からない。 ただ、私は次の体育の授業の忘れ物を教室に取りに来て、そしたら白原くんも教室に来て、それから…。 (……今に至るんだよね) 流れに脈絡が無さすぎて、さっぱり訳が分からない。 一連の流れを思い返しても、やはり壁に追いやられるような原因が思い付かない。 これがもしいつもの彼の気紛れだとしても、あまりにも自由気まますぎるのではないか。 振り回されて堪るもんかと、顔だけは横にそらして抵抗してみる。が、何しろ今の状況が状況。 教室の壁を背に、意味ありげに向かい合う男女。今は体育の授業直前でみんな運動場に出払ってる。けれど、もし私のように忘れ物を取りに来た人が居るとすれば…。 (色々と非常にマズい…!!) 「早く行かないと授業始まっちゃうよ」 「うん、そうだね」 「…退くつもりはない、と?」 「それは勿論。君を困らせることが俺の一番の楽しみだから」 「え、普通そこは“喜ばせること”とか言うところじゃないの?」 呆れて物も言えない状態の自身とは対照的、それはもう楽しそうに微笑む白原くん。 彼に常識が通用しないのは十分承知しているが、自分の好いた人(しかも彼女)を困らせることを楽しみにするのは正直どうかと思う。 とりあえず抗議でもしておこうかと目前の顔を睨んでみる。しかし、そんなもの無意味だと言わんばかりに、ふいに腰を優しい手つきで撫であげられた。 身体のラインを確かめるようになぞる白く細い指。それに反応するかのように、甘い疼きが背筋を掛ける電流となる。思わず目の前にある白いカッターシャツを強く握れば、白原くんが幸せそうに笑ってみせた。 腰を撫でていた指が肩を過ぎ、顎を撫で、そしてとうとう唇へとたどり着く。 俯こうにも、身体は完全に硬直状態。真っ直ぐに私へと向けられた彼の視線には、何か不思議な引力っもあるらしい。 見つめあったまま、目が離せない。 離してほしい。 触れてほしい。 駄目だと首を振りながら、ぬくもりを期待している自分がいる。 逃げたいのに、逃げたくない。 矛盾した感情が私の心をがんじがらめにする。 「好きだよ、亜貴ちゃん」 「…それなら離して」 「君が好きだから、離してあげない」 理性がぐらぐらと大袈裟に揺れ始める。いけないと分かりつつも、そんな考えすら全て投げ出してしまいたくなる。 見つめ、見つめられ、思考が麻痺してふやけていく。 キーンコーン カーンコーン 静を保つ二人の間にふいに響いた、授業の始まりを告げるチャイム。 無機質なその音を合図に、本能が背徳感を飲み込んだ。 それは、私の世界が動き出した瞬間。 プツリと糸が切れたように、私の視界は緩やかに闇に溶けて落ちた。 パラドックス (矛盾ばかりの恋心) END [*前へ][次へ#] |