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僕らの非日常な日常
*智沙と祐大、二人は幼なじみ
*彼氏彼女ではナッシング
*ツンデレ智沙、ドンカン祐大



〜〜〜〜〜

「雄大のばかッ!!!」


ざわざわと落ち着きのなかった教室を一瞬にして沈黙させるほどの怒号が響き渡る。さすがは智沙だと感心する間もなく、飛んできたのは片足の上履き。それも、俺の顔面目掛けて。避けようにもあまりにスピードが速すぎる。おかげで、俺は文字通り身体を使ってキャッチする事となった。

……やばい、予想以上に痛い。



「……智沙」

「なっ、何よ…!!」

「お前さ、かなり優秀なピッチャーになれると思う」

「雄大なんて大嫌い!!」



弓道部部長の俺の動体視力を持ってしても避けきれない豪速球、もとい豪速靴。
もちろん、誉めたつもりだったのに。
俺の称賛がお気に召さなかったらしい智沙は、赤くなった頬をますます膨らませて教室を飛び出していってしまった。それも、もう片方の上履き投球というおまけを残して。


――バシッ!


そんな音が目の前で聞こえたのだが、不思議と痛みはない。どうなっているのかと反射で閉じた目をそっと開けば、こんがり焼けたゴツゴツ手が、上履きをしっかり握りしめている様子が目前に見えた。


「なんだ、雄大。お前の彼女は随分バイオレンスだな?」

「…秋誠。何度も言ってるけど、智沙は彼女じゃないから」

「まぁまぁ、幼なじみなんて似たようなもんだろ?」


何が似たようなもんだ。無意識に盛大なため息が出る。
投げ掛けられた言葉に納得いかず憤慨のあまり立ち上がれば、いつの間に側にいたのか、俺の(自称)親友である古谷秋誠がニヤリ、俺の目の前で意地の悪い笑みを浮かべてみせた。

男にしては大きめな、人懐っこい丸い瞳。ハンドボール部員らしく日に良く焼けた両腕を組んで、至極楽しそうな顔でじっと此方の様子を観察している。心配して探る、というよりむしろ自分が楽しむ為に俺に突っかかってきているらしい。

嗚呼、本当に。
なんてたちの悪い男だろう。


「で、理由は?」

「別に、大したことじゃない」

「嘘つけ、上履き投げられるなんて相当な事だぞ。しかも二回も」


大したことないだなんて、別に取り繕うことないだろう。非難するような視線を投げ掛けられて、真剣に回答に詰まってしまった。
まぁ確かに、端から見れば女子が上履き投球なんて相当な事があったに違いないと感じるのもしれない。
だが、相手は俺の幼なじみで意地っ張りの“あの”智沙だ。
跳び蹴り、エルボー、なんのその。これが日常なのだと言ったならば、秋誠はきっとひどく驚いた顔をすることだろう。(妙な噂が流れると面倒だから、教えてなんかやらないけど)


「とりあえず、本当に大したことないかどうかは俺が聞いて決める。ほら、理由は?」

「…が……から…」

「ん、なに?」

「っ、だから!智沙が映画が観たい行ってったから!」



だから、映画が観たいなら休みの日にでも行けばいいだろ?って言ったら、雄大は女心が分かってない!と怒鳴られた、と。簡単に言えばそんな経緯だ。
そもそも性別が女ってだけで、智沙が女心なんて繊細そうなもの分かっているかどうかも怪しいところだと思う。
しかも俺は映画に行きたいなら行けばいいと、ごく普通のアドバイスをしただけなのに。それが女心を損なうことになるなんて意味が分からない。繋がりが複雑すぎる。


捲し立てるように溜まっていた鬱憤を吐き出せば、少しだけ胸がスッとした感じがする。いつもは智沙に言われっぱなしだが、こうして不満を口にするのも実は大事なのかもしれない。

少し晴れやかになった気持ちで椅子に座り直せば、スッキリ顔の俺とは正反対、心底うんざりといった顔の秋誠が盛大なため息をついた。


「なんだ、結局は痴話喧嘩なんじゃないか…」

「だから、そんなんじゃないって」


なおもしつこく俺と智沙の関係性を固定しようとする秋誠に否定の言葉と軽いチョップをお見舞いして、床に散らばった小さな上履きを拾い上げる。
昼休みは残りもうあと5分。きっともうすぐ、気まずそうな顔の少女が靴下姿でこの教室に帰ってくることだろう。そのとき、どんな顔で、どんな言葉で、俺は智沙にこの上履きを渡して見せようか。
おずおずと手を差し出すその様子は、きっと借りてきた猫のように大人しいに違いない。密かな楽しみと仕返しの様子を思い浮かべると、何故か自然と小さな笑みがこぼれた。


僕らの非日常な日常

(さぁ、どうやって君を迎えようか)

END






ブログより再録小話。
ケンカップル萌え!

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