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アリスと白い男(lost hide)

Lost hide
〜プロローグ〜




重い瞼をゆっくりと開く。
草の匂い。世界を満たす光にそっと視界を細めれば、悪戯な風が髪の間を勢いよくすり抜けていく。


(ここは、どこ?)


日差しになれた目を開ければ、そこに広がるのは一面のグラスフィールド。
どこまでも続く碧はまるで私を包み込むかのよう。そよ風と共にゆらゆらと揺れている。


(ここは、どこなの?)



美しく、澄んだ景色。
だけど、この風景を私は知らない。
どこまでも優しい世界。優しいけれど、きっとそれだけ。ここには私の居場所なんてない。なんとなくだけど、そんな気がする。


(帰らなきゃ、)

早く、早く帰らなきゃ。



(でも、どこへ?)



問いかけて、はたと気付く。
私の帰るべき場所がどこにあるのか。どんな所なのか。驚いたことに、私はちっとも知らないのだ。
それどころか自分の生い立ちも人脈も境遇も、更には名前すらも。



(……分からない)



向き合った現実にクラリ、目眩。
私はいったいどこの誰で何のためにここに居るのか。考えようにも、これではあまりに材料が少なすぎる。
どうにか記憶を探ろうとするけれど、思い出は答えてくれず。まるで自身の全てをどこかに置いてきたみたいだ。私の中にあるはずのそれに、どれもこれも掠りもしない。


(どうしよう…)



先の見えない未来への不安が一気に押し寄せる。この世界で私に残されているものは全くもって何もない。
そんな状況下で、たった一人ぼっちの私にいったい何が出来るというのか。考えの“か”の字も浮かびはしない。

溢れ落ちるのは虚無と絶望と、一粒の涙。一気に押し寄せてきた負の感情に、自然と頭も重力に負けて項垂れ落ちる。
誰もいない。何もない。私は、ずっとこのままなのだろうか。ふと、そんな嫌な考えが頭の端を過った、そんな時だった。



「やぁご機嫌如何かな、僕の可愛いアリス?」


一瞬にして世界を変える、柔らかいテノールの声。驚いて顔を勢いよくあげれば、そこにはいつの間にか見知らぬ男の人が立っていて。


「また会えたね」


言葉を掻き消すように、一層風が強く吹く。ざわめきたつ視界、微笑んだまま私を見つめる男の眼差し。
それが全ての運命を左右する出逢いだったとは、このとき私はまだ知る由もなかったのだ。


first contact
(さぁ、物語りを始めよう)




何となく思い付いたアリスパロ。
記憶喪失なアリスと、彼女に自身を追い掛けるように促す自称白ウサギな男の繰り広げる奇妙で少し切ないお話(予定)です。
多分、続かないはず…。

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