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企画提出作品、ビタZ
*VitaminZ応援企画「好き、スキ、大好き」様への提出作品
*八雲×真奈美(ED後、恋人設定)
*ほのぼの甘め



〜〜〜〜〜〜


ひとつ、またひとつ。小さく丸められた紙屑が軽快に宙を舞う。
その様子を暫し観察していた私だけれど、もうそろそろこの状況を止めなければ。きっとこのままでは私の部屋が紙屑の山に埋もれてしまうに違いない。(それは大変なことだわ…!)



「八雲くん、」

「やっぱり、ここは“ずっと好きでした”がいいかな?」

「ねぇ、八雲くんってば」

「でもでも、“君は僕の太陽だ!”の方がニーソソックスな気も…」

「それを言うなら“オーソドックス”です…!!」

「あれ、どうしたの真奈美ちゃん?」



私の可愛い恋人、もとい八雲くんがキョトンとした顔で振り返る。
パッチリと大きくてキラキラとした瞳。一瞬ほだされそうになりながらも、そこは女の意地とプライド。目を逸らし、拳を握り、グッと堪えこむ。



「…あのね。もう、手紙はいいんだよ?」

「えー…!!やだやだ、僕だって真奈美ちゃんにラブラブレター書きたいー!!」



説得するための言葉が、どうやら墓穴を掘り進めてしまったらしい。頬を膨らませて、完全に拗ねてしまった八雲くん。プイッとソッポを向かれてしまっては、もう私にはどうすることもできない。(それ以前に、ラブラブレターは何かが違う気がする…)
どうしようかと頭を抱えると共に、唐突に、一時間前の自身の軽率さがひどく恨めしく思えた。



My Dear…愛しい君へ



事の発端はよくある日常の何気ない会話。
私が高校時代に貰った最初で最後のラブレターの思い出を何となく話したことが、全ての始まりだった。

今日ね、天童先生が生徒からラブレター貰っていたのよ。
ラブレターって、文字から相手の気持ちが伝わってくるから素敵よね。
そういえば、私も高校生の時に一度だけ貰ったことがあるなぁ。

多分、こんな感じのことを言った気がする。ほんの三行、サラッと流せるような短い会話。
だけど、そのたった三行が、恋人同士の甘い空気を一気に別のものへと変えてしまった。
今まで隣でニコニコと笑って話していた八雲くんが急に真面目な顔になり、そして発した一言が“僕も真奈美ちゃんにラブレター書く!!”。
突然のことで呆気に取られている私を尻目に、ペンと紙を握りしめて机に向かい合った可愛い恋人。おおよそ一時間。
最初はとりあえず様子見をしていたけれど、ああでもないこうでもないと、増えるのは丸められた紙ばかり。
なかなか納得のいく文章が思い付かないのか、少し書いては紙をグシャグシャに丸め、書いては丸め…。気が付けば、紙屑の海と化した八雲くんの周り。それから今現在に至る訳だ。


高校のときに貰ったラブレターはもう昔に行方知れずになってるし、もちろんその相手と今現在何か繋がりがあるという訳でもない。実を言えば、貰った当初もごめんなさいとお断りしていたりする。
いま私が好きなのは八雲だけで、それは此れから先もきっと変わりはしない。
だけど、彼はそんな思い出話にも焼きもちを妬いてくれている。律儀に、ラブレターまで書こうとしてくれている。
不謹慎だけど、恋人としては正直嬉しいと思ってしまう。


だれど、いまの私が欲しいのはラブレターでも愛の告白でもない。確かに欲しくないといえばそれは嘘になる。けれど、それらは今の一番の願いじゃない。
いまの私が、本当に欲しいと思うもの。心から望むもの。

それは…。



「時間が、欲しい」

「真奈美ちゃん…?」

「私が欲しいのは、八雲くんとの時間なの」



八雲くんは私の恋人だけど、また同時に皆のアイドルでもある。レコーディングにテレビ収録、目が回るほど忙しい彼だけど、本音を言えばもっと二人で一緒にお喋りしたいし、もっと一緒に笑いあいたい。(もっと、もっと私に構って欲しい)

今日のお休みも、連日アルバムのレコーディングが続いて会えなかった私たちを気遣ってエリザベスさんがくれたもの。本来ならば、もう1ヵ月は会えないままだったろう。

八雲くんのお仕事が大変で忙しいのは、恋人になる前から分かっていたこと。それなのに二人の時間が欲しいなんて、所詮は我が儘に過ぎない。子どもっぽい独占欲だと、自分でも心底呆れてしまう。
だけど、それこそが私の本音。嘘偽りのない、八雲くんへの真っ直ぐな気持ちだから。
こうして彼に会えるときには、出来る限り、大切にしていきたいと思っている。二人で共有できる時間と、積み重なってゆく色々な想い出、そして私の中で大きく育った貴方への想いを。



真剣な眼差しで本当の気持ちを紡ぐ。重なった二人の視線、静かに流れてゆく時間。いまできる精一杯を込めて見つめた彼の瞳は、綺麗な山吹色で。淡く深く、そしてひどく穏やかな光を宿していた。
それは、まるで全てを悟っているかのような優しい光。
私の大好きな、八雲くんの瞳。



「むーん…。やっぱり、真奈美ちゃんには敵わないなぁ」


降参と言わんばかり、深い深いため息をついて、ついに八雲くんが紙と鉛筆を放り出す。重量に逆らってひらひらと宙を舞う便箋。ぼんやりとその動きを追う私の視界は、何の前触れもなく、ふと気が付けば真後ろへと反転していた。



「えっ、八雲くん…!?」

「真奈美ちゃんは、ラブラブレターだけじゃ足りないんだよね?」



視界ほんの数センチ先には、八雲くんの大きな瞳。どうやら、私は床に押し倒されているらしい。触れるか触れないかの距離で艶っぽく笑う彼。重なったままの視線はひどく甘く穏やかで。“まるで少女漫画みたい”なんて、まるで他人事かのように思考が私に囁きかける。
緊張で動けずにいる私の頬に、そっと八雲くんの掌が触れる。その熱が、どうやら私の羞恥心や意地、それに考えるべきその他もろもろの思考や感情を全て溶かしてしまったらしい。


(そう、決して流された訳じゃないのよ?)



「あのね、八雲くん」

「なぁに、真奈美ちゃん?」

「………大好きよ」



小さく囁いた想いは、二人だけの秘密の言葉。八雲くんが息を飲んだ音を合図に、止まっていた時が動き出す。ギシリ、床の軋む音。それすらも愛しく感じるのは、きっと気のせいなんかじゃない。
(それだけ、私は八雲くんのことが好きなんだ)

段々と縮まっていく距離が、胸の奥を満たす。ゆっくりと重なりゆく唇。その熱を切に感じながら、私はそっと瞳を閉じた。



END






VitaminZ応援企画「すき、スキ、大好き」様に提出した八雲と真奈美なお話。
企画者の久遠様、そしてここまで読破くださった貴方様にこの作品を捧げます。有難うございました!!

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