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風memo




エーテルは戸をそっと開けた、と同時に淀んだ空気が待ってたと言わんばかりに部屋から外へ逃げ出す。思わず、ディムロンは咽び込んだ。どういうことだ、エーテルは思った。



「早かったねえ、エーテル。手伝え」



戸が開かれるとすぐにジゼルは姿を現した。げんなりとした顔色を隠すことなく、それでもにんまりと笑う。
エーテルはその様子にまず苦笑いを浮かべ、その周囲を見張ってまた、笑うとともに虚しい息を吐いた。



「あのこれは一体、どういう?」
「片付けてるのですよ、エーテルさん。これ、だらし無いにもほどがありますよね」



奥の部屋から出てきたルフは柔らに笑んだ。
人が僅かに身動くだけで埃が舞った。



「えっとお久しぶりです。ルフさん」
「ああ、それよりも他の部屋も酷すぎますよ。足の踏み場なんてないようです。はい、そこの人も手伝ってくださいね」



室内の惨状に困惑するディムロンにルフは穏やかな調子で言って部屋に招き入れる。



「そっちの部屋、客間だったんだが、どうしたものかねえ。感心するほどの散らかりっぷりだ。しかし、だ。今日そこに泊まることになるんだから。ディムロン、働かざる者……」
「わかったよ」



ジゼルが指した部屋に愚痴を零しながらも向かうディムロン。エーテルも後をついていった。
作業を再開させたところに再度、今度は勢いよく、少々乱暴に戸が開かれた。



「たく、もう勝手にいじらないでください!!」



青年が叫んでいた。ハーシェ・ハーシェスは頬を紅潮させて、息たえだえに肩を動かす。被った頭巾から出たサラサラストレートの金髪。涙で潤む漆黒の瞳。
俄然の乱入に呆気にとられたジゼルは搾り出すように言った。


「ハーシェ……お前」
「あ、ジゼル様。ごめんなさい!!」
「あのねハーシェ……いい加減にしたらどう?」
「酷いです。アーデスさん、私を売るんですか!?」



ほとほと困ったとルフは息して、冷めた瞳で彼を穿つ。



「人聞き悪い。どっちにしてもハーシェは賢者様にお願いがあるんでしょう。しゃんとなさい」
「なんだい? ハーシェ?」



すっかり弱ってしまった様子のハーシェはジゼルに向き直り、口を割った。



「報告が、お願いします」
「……二人でちょっと話そうか。記憶が正しければ仮にも宿だろ? ここは一体……なんだい? そうだな、一回外出ようか? なあ、ハーシェ」



手招くジゼルから脱兎の如く、



「いやだ!!」



と逃げ出した。
それ目撃した者は皆、呆れた息を吐いた。ジゼルはやれやれと後を追っていった。




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あきゅろす。
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