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少女、無の旅人






エーテルを置いて、ディムロンとジゼルは二人っきりで草原を歩いていた。
始めは、まだ騒ぐディムロンを無理矢理引っ張るという形でいたが、おとなしく黙って後をついて来そうなのでジゼルはゆっくりと服から手を離して、杖も胸元にしまった。
エーテルから掠め取っていた林檎を頬張りながら、指折り何か数えている。



「なあ? アンタ?」
「何だい?」
「何を数えてるんだ?」
「天気が心配なんだよ」
「晴れてるだろ。大丈夫だ」
「ん、天気って女心のように変わりやすいものだよ。信じてると裏切られる」
「アンタ、何言ってんだよ」
「ま、あとエーテルがどれくらいで追い付くかを数えてるんだ」



そういえばと振り返るディムロンの視線の先にエーテルの姿はない。
障害物となるものもない見渡しのいい原っぱであるのにうっすらとでも見えてくる気配もない。



「けど、勝手に進みすぎじゃないか? アイツ、ダメで鈍臭そうだったし……迷子とか」
「あの子のこと馬鹿にしない方がいい」



首を傾げるディムロンにジゼルは空を仰ぎながら続ける。
―青いな、今日はより一層。



「怒らせたら、まあ危ない方だな」
「今、俺が言ってんのはあいつが真面目に来てないってことで……」
「あ、そのうち来るだろう。それより、ロンはその弓を直してどうするんだい?」



関係ないと言わんばかりに鼻を鳴らしたディムロンは、ジゼルが持っていた袋を奪い取り、中身を確認して自分で背負う。



「おや? 持ってくれるのかい」
「俺の弓だからな」



自慢げに言う姿にジゼルは、何とも言えないといった笑みを浮かべ見つめていた。
どうやらディムロンは、置いてきたエーテルが気になるらしい。
会話の最中も何度も視線を逸らし彼女を探しているようであったし、こうやって声をかけて先を行こうとするジゼルの足を止めようしている。
エーテルのことなら大丈夫であろうに、とジゼルは息を漏らす。
面倒臭いと思いつつ何もない草野原に腰を下ろした。



「疲れたから休もうか? エーテルも来てないし」



その言葉を受けると黙って頷き、少し離れた場所で転がった。
何やら噴き出したようにジゼルが笑い出す。
それが気に障り、上半身だけ起き上がらせ、



「何をやってるんですか? 二人とも」



怒鳴ろうとディムロンは口を開いたが、先に聞こえてきたのは別の声でそのまま後ろを振り返れば、



「口が半開きですよ……ディムロン」



桃色の肩までの髪に緑の瞳の少女。
驚いてあんぐりと口を開いて閉じることを忘れたディムロンと視線が合う。
声はエーテルのもので違いないのだが、容姿というより色彩が――。



「お前!? だよな? 色が……てかなんだその髪色!」



髪先を軽く弄りながらなんてことないという風に、



「ただの術なのですが」
「魔術なのか? その髪色が」
「エーテルの髪、桃色にしか染まらなかったんだよ。目の色は、まあ緑でまだ良かったんだが」
「元は、白髪だろ……目の色の方は珍しかったけど」
「アレだと何故か軍やら何やらに追われるんです」
「誰かに勘違いされるってわけか」
「一度や二度なら良いんですが、弁明するのに少し……」



心底、困っていると苦笑いを浮かべながら話すエーテルにディムロンは静かに耳を傾ける。
その姿が愚痴る飼い主とそれを聞く忠実な飼い犬のようでジゼルは、声を噛み殺して笑っていた。

暫くしても二人はというよりも一方だけが喋っているだが、話終わりそうになく、いい加減二人を眺めているのにも座っていることにも飽きたジゼルは、業とらしい咳払いで注意を集め立ち上がった。



「そろそろ、行こうとおもうんだがな」



有無を言わせぬ表情で呟いた。
一瞬だけ冷気にも似た感覚がエーテルとディムロンを襲い、時が止まったかの如くその場で停止する。



「エーテル、ロン?」
「御師匠行きましょう」



慌ててエーテルが切り出すと、ジゼルは満面の笑みで首を縦に振った。
―何がエーテルの方が恐いだ。自分の方がよっぽど質が悪くて恐いじゃないか。
ディムロンは心の中で悪態吐いた。



「ディムロンも行こう」



エーテルがディムロンの手を取り歩き出した。
咄嗟のことで文句も言えず従うディムロン。
三人は、何もない草原を歩いた。



「おい野宿は嫌だからな」
「わかりましたよ、ディムロン」
「このジゼルも嫌だよ」
「はい、御師匠も」








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あきゅろす。
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