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人の為の剣と盾





やっとのことでエーテルに拘束を解いてもらったディムロンは、移動した先の客間で一伸びしソファーに寝転んでいた。用意されていたお茶に手を付けず、お菓子を一人で頬張り遠慮なく寛いでいる。
エーテルは何度か部屋を出たり入ったりしていたがそんなこと気にしていない。
ドアをノックする音が聞こえて返事をするとドアがゆっくりと開く。



「お前、エーテルの味方して俺を……」



その姿を見るやディムロンは素早く身を起こし、身構える。
柔らかな紺の髪を弄り整えていた手を止めて、会釈をしてからニルスは部屋に入った。
警戒心を露にして睨んでいるのを確認するように一度そちらを見返すが、気に入れることなくすぐに微笑みをエーテルに向けた。



「暇ですから様子見に……心配で」
「ニルスさん、さっきは有難うございました。それで遅れましたけどこちらはディムロン・リ・クレセゾンといいまして……」
「あ、そうですか……ディムロンね。じゃあ私もニルス・クラウスト・リグレーです。中立騎士団特務隊の副長をしています」



ディムロンの方に身体を向けると灰色の瞳を細めて丁寧にお辞儀をするニルス。
そんな彼に今にも飛び掛かりそうなディムロンにエーテルは、厳しい眼差しを向けた。
ディムロンは臆して後退し、ソファーの上にあったクッションを取って抱えると、



「な……エーテル、勝手に俺のこと紹介すんな!」



と頬を膨らませた。



「知られたら困ることでもあるのですか? ディムロン殿」



口許に手を添えながら問うニルス。



「私はディムロン殿のこと一度も詮索してはいませんよ」
「ああ、悪かったよ。俺が悪かったな。馬鹿」



言葉を吐いて捨てると再びソファーに寝転んだ。俯せて耳を塞ぐようにしてクッションを頭に被る。
エーテルは何となく申し訳なくうなだれた。
ごめんなさい、と言葉には出さなかったがニルスは察したのかいいですよ、と言ってくれた。
お互い呆れた笑みで息を吐く。



「……ディムロン、すぐにそれはいけないと思うよ。ニルスさん、ネグアさんのこと」
「嗚呼、あの人ならグランギスに行ってるはずだよ」
「なんでだ!?」



ディムロンは飛び起きてソファーに座り直る。



「ディムロン、声が大きい」
「理由までは知りません、といいたいんですが」
「知ってんのかよ」
「弓が……どうとか聞きましたね。あと何かありましたっけ?」
「弓って、ディムロンも弓を直して欲しくて」
「行き違いかよ……馬鹿」



三人揃って黙り込んだ。
視線の先にあるのはディムロンの弓。



「それはそうとディムロン殿はグランギスの方ですよね」
「そういうお前はラディアンスのいい身分だろう」
「そんなことないよ。君に比べたら」
「なっお前……」



ニルスは人当たりの良い微笑みを浮かべどうしてこうも今日は人を刺激することを言うのか―相手がディムロンだからか。エーテルは、頭を抱えながら思った。
ディムロンもディムロンでそれに乗ってかかっていく。
止めることも気が失せたエーテルは、冷めたお茶を口に含んで時間を気にしていた。



「何やってるんだい?」



扉が開いてその声がしたのは言い争いでキレたディムロンがクッションを投げつけたのとほぼ同時であった。
最小限の動きでニルスは避け、そのクッションは扉が開いたところ、ジゼルの顔の前。
ジゼルは咄嗟に叩き落としたようでパフっと床に落ちる。
顔に当たるとこだった、と笑いながら飛んできた物体を確認しているジゼルだが、目が笑っていないことに部屋の空気が凍りつく。
機嫌が悪い、クッションの性だけではないだろう。ディムロン以外の二人はわかっていた。



「御師匠、ウェルクさんに会いましたか?」
「ああ、相変わらずの顔で……」



エーテルが意を決して話しかけても反応が薄い。
マティリアと会うたびにこんな状態だ。やはり自分が付いていっていた方が良かったんだろうか、エーテルは心の中で呟いた。何に苛立ちを感じて帰ってくるのだか。
悲しげに嘆息を漏らすエーテルにディムロンは首を傾げた。



「ジゼル殿」
「ニルスか、特務隊も変わらずのようだな」
「おかげさまですよ」
「毎度チズサには驚かされるよ」
「隊長は隊長ですから」
「お前にも、な」



会話は成り立ってはいるが、未だ声低く、表情は厳しい。
そんなジゼルに対して、



「変わり者の集まりですよ、自他共に認めた」



珍しく声を上げ笑うニルス。
暫くはそれを黙視していたが、ん。と頭を傾けてジゼルは、片眉をあげた。



「おい。ところでニルス、何でいるのか言いな。まさか、暇だからじゃないだろう」
「今のところはまだ、そのまさかですが?」
「嘘だろ、何が狙いだい?」
「まあ加治屋さんの情報を差し上げたので何かその代価を返して欲しいというのは本心にありますが……サービスで」
「じゃあ貸しでもないな、サービスなんだから」
「はい。隊長がいたらきっと百倍にして返して貰っていますよ。じゃないと怒られますし」
「有り難く貰っとくよ、チズサのいない内に」
「あ、そのかわり……」



ニルスは、ジゼルに何やら耳打ちする。
何を話したのかはわからなかったが少しでも表情が柔らかになるジゼルにエーテルは胸を撫で下ろした。
話が終わるとニルスは、では。と静かに立ち去っていった。






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