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嘘、だからと





今にも泣きそうな表情で彼女は僕を睨んでいる。
怒りも哀しみも混じっていて感情の集合体であろう――泪を目一杯溜め込んでいた。赤く腫れてしまった瞼、目の下に出来た薄黒いクマ。どこから見ても痛々しく感じてならない。僕は、彼女をこんなにしてしまう程の重大なことをしてしまったらしい。なんだろうか、はっきりしない。頭の中の記憶を掘り起こそうとするが霧が立ち込めて上手くいかない。全てがぼやけて見える。まるで視界にまで脳内の濃霧が蔓延しているようだ。気がつけば、彼女は目の前からいなくなっていて一瞬だけ色彩が奪われたような空虚なモノクロ世界に立っていた。それは、ほんの瞬きの間だったが、とてつもない不安に襲われて顔をあげると彼女と目が合った。未だにあの表情から変わってはいない。それでも安堵の笑みが僕に浮かぶ。こんなことして拳骨でも飛んでくるかな、なんて考えて覚悟を決めて待ってても一向に来ることはなかった。何かやっと重要なことに辿り着けそうな気がする。昨日、そう昨日。真剣に彼女と向き合って考える。業を煮やしたのか、彼女は「馬鹿」と吐き出すように呟くとついに泣き出してしまった。膝を抱え、顔を俯せ隠し、震える小さな肩を前に僕は何も言えなくなってしまった。頭の中が真っ白だった。思い出すんじゃなかったかも。崩れ落ちてしまった彼女を前に呆然と天を仰いだ、ちっぽけな僕。触れてみようか、いやわかってしまう。虚しい葛藤を繰り返して辿り着けた答えは、彼女を抱きしめるということだった。



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あきゅろす。
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