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夢想の後






「最近、姉ちゃんがお前に近づくなって騒ぐんだ」
「ああ!? なんだ、それ」


ポツリと少年が呟いたことに青年は目を丸くした。わからないよ、と言って疲れた顔を見せる少年に青年は心当たりを必死に探す。正直、彼の姉のことを思い出すだけげんなりとした気分になるのだが。


「騙されてるとか言って」
「つまりなんだ、俺に警戒しろと?」


無言で頷くと少し悩んでから、


「そう。なんか危険人物だとか……ああ勇者なんだってね。何やらかしたの?」


と少年は首を傾げながら言った。
あどけないそれは確かに愛らしく、先日彼の姉が言ったことが軽々と連想出来た。
――お姫様、ねぇ。
けだるそうに青年は辺りを見回しながら思った。


「あのことかよ、それ」




放課後の独特な空気に包まれて、茜色に染まる白壁の校舎。普段たむろする屋上にカラスが何匹かいて、昼の不良共の代わりといわんばかりに騒いでいる。やがて最終下校時間を知らせる音楽も聞こえてきて、ちょっとした合唱みたいだ。実際、ただ五月蝿いだけだが。
青年は靴箱で居合わせた少年にあれこれと先日の放課後、彼の姉との会話を説明する。時折、相槌をうちながら最後にはちゃんと理解してくれたらしい――少年は大仰に頷いた。
二人並んで学校の玄関を出る。
暫く歩いてから自然と足が止まって、


「でも大変でしょ。そんな虚言の相手。一々、他人の夢のことなんて……」
「知ったことか……だよな」
「うん。ごめんね、うちの魔王が」
「でそんな魔王と一緒に帰らねえのか? たいていは一緒いるじゃねえか」
「え? 普通、ヒロインは勇者(ヒーロー)と一緒なんじゃない? というより僕が誰と仲良くしようと僕の自由!」


明るいその声に青年はあー、ああと曖昧な返事をして、だけどなと言いかけて途絶えた。その表情は苦笑いを浮かべ、先を見つめたまま。少年は、ほんの少し怪訝そうに頭を傾げて視線をそちらにやった。目を凝らしていると隣で青年が盛大に溜め息を吐いたため、ちらりと窺う。


「ああ? 悪い。お前もわかったか、今……あそこにすっげー黒いオーラを纏った魔王がいるように俺には感じるんだが」
「……ああ、お姉様」


肩を並べて、頭を抱える勇者と姫。
その先に魔王が待っている。





*


「どうする? 怒ってるみたいだぞ」
「僕は、悪くない」
「同意する。だけど、今のあいつにそんなこと通用しないと思うぞ。しかし、ギャーギャーとよく騒ぐな。恥ずかしくないのか」
「今じゃなくても通用しないよ。本当にうるさいし、もう僕の方が恥ずかしい」




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