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蕩けた夢想





起きたばかりの彼女のぼやけ視界の先には黒に近い深緑色をした大きな板があった。そして臥していたのは見慣れた机。学校で寝てしまっていたのかとまだ気怠い身体を起こして、寝ぼけ眼を摩りながら理解した。先までのは夢の中だったか、もう殆ど内容は覚えてはいなかったが知らない土地を冒険してたようなやつだった。まるでファンタジーの。夕焼け色に染まるクラスルームで下校チャイムが鳴り響いた。乱雑な髪を手櫛で直して隣の机に置いていた己の鞄の中を乱暴に漁る。手鏡があったはずだ、と。教科書やノートを掻き分けて探しても見当たらない。仕方なく諦めてガダン、と立ち上がる。それから茜の空を眺めようと彼女は窓際へ。綺麗に磨かれた硝子はちょうど鏡のように映った。しめた、と身なりを整える。そろそろ、見回りの生徒か先生が通りかかるだろうか。そう彼女が考えていたら、ガラガラと扉が開かれる音がした。



「あっ勇者様……」
「いきなりなんだ。寝ぼけてんのか? 制服姿で武器一つも武勇伝も持ち合わせてない勇者がどこにいる」
「ここにいるではないか」
「じゃあ一つ聞く。俺が勇者ならお前は一体なんなんだ? 俺がヒーロー、お前がヒロインなんてのは止めてくれよ」
「えっ? なんで?」
「マジでそうなのかよ!?」
「違うよ、残念だけど」
「本当良かった。でそんなお前は?」
「気になるの?」



振り返り様に言った。意地の悪い笑みを浮かべていたが、清々しさは爽快で夕陽に照らされた彼女は一段と美しく彼にはみえた。



「私が魔王だ。勇者よ」



彼女の高笑いの声が教室に響いた。






*



「ところでヒロインは?」
「……私の弟。我が弟ながら可愛かったよ。見事なまでにお姫様していたんだ。姉としては複雑だ、君のような男に奪われると思うと」
「はあ……俺は」




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