[携帯モード] [URL送信]
静寂な昼で




何もない空虚な空間を歩いていた。
静寂を壊さないように自分から発する音すら全てに気を遣って、その音を殺すように身体を動かしていた。いつの間にか無意味なまでに簡素で清潔な部屋に変わって、殺伐とは違いほんのり淡い色に包まれる。巧みに造られた世界だ。優しく照らす太陽の光は余すことなく降り注いでいて、まるでこの部屋の主そのもののようだと思えた。その主はというと、漠然と広い室内の中で離れた小さな孤島にも見える豪華絢爛なベットの上で転寝をしていた。
瑞々しい桃色の唇、ゆっくりと一定のリズムで上下する胸。静かな呼吸。優しく緩やかに時間は流れてくれている。思わず、漏れる微笑に一喝を入れて、首を左右に振る。自分の足音がなるべく耳に伝わらないようにと、また気を張ってその主に近づいていった。

「寝てないよ、まだ……」

ひょっこりと顔を掛け布団から出して唇を尖らせていた。てっきり寝ているものだと予想を覆されてフリーズする身体。そんな様子が奇怪だったのかケラケラと主である少女は笑いだす。おそらく上気した顔が可笑しいのだろう。溜息漏らせば、さらに身体も揺らして笑う。可愛らしいまでに可憐で純真無垢なる少女。眉を顰めて首を傾げると、

「ごめんなさい」

しゅんとして布団に逃げるように隠れる。なんて微笑ましい光景。無意識にも笑みが漏れてしまうだろう。嘆息混じりで二言、「はい、はい」と返事をすれば、再び無邪気に笑い出す。
窓の白いカーテンが風に仰がれて、合い間から蒼穹が覗いている。暖色の光、心地よい草木の香りが部屋を通り抜けていく。清々しくてそれが恐い。自分には似合わないなあ、なんて心の片隅で思ってみて、何処かに虚しさを感じた。こんな世界、せめて夜にすれば良かった、と。自嘲的な表情をしている自分をガラスの反射で向き合う形になった。

「気持ちいいね、寝ようかな……いい?」

柔らかな声。
つい、外の方に向いていた意識を少女に戻す。視線が合ったところでゆっくりと笑みを作って、そのまま大きな瞳を閉じた。遅れて返した自分の微笑みを映すことはない。その代わりにその瞼にそっとキスをして、ベットから離れた。甘くなったものだ、二度寝を許すなんて。



ドアを閉める前に一言だけ
「 良 き 夢 を 」 と呟いて。



[BACK]





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!