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コンビニ帰り




さて、と思った。歩いては立ち止まり、歩いては、止まり、を繰り返しては振り返る。大して進んではいないのにハジマリは遠くに見えた。そんな気がした、それだけだ。
白い息が天高く上がる。気づくと遠くにまどろむ光が来ている。時計を見れば―ああ、と彼は納得した。いっそ駆け出そうと思ったが足が重いのを理由に断念する。吐いた息を追って空を見上げれば、重そうな鼠色の雲が漂っていることに気がついた。光が来ているのに。雪でも降るのだろうか。それともそれ以外の何かが。まさか。かじかんだ手を擦り合わせれば、まるで祈っているようだった。


「まだ寒いな。他の止めてやっぱ、あのカップラーメンも買っとけば良かった……もう少し金がな、ってそんな我が儘言えないか」


コンビニ帰りのくだらない後悔を口にして、息を吐いた。やっぱり白い雲のようなそれを見送り、待った。


「ゴメン、待っててくれた?」
「待ってない。ここはコンビニの前じゃない」
「でも……殆どかわりないよ」


確かに。そうだとしても言った通りコンビニの前ではない。少なくとも先に歩きだし、置いていったことになる。そうだ。隣に並んだ一回り小さな人影に視線を移して、それをボソボソと説明すれば影の肩辺りが小刻みに揺れ動いた。笑う声が耳に触れる。


「あ、怒るな。怒るな。待っててくれたってこと素直に言ったなら嬉しかったのになあ」
「悪かったな、馬鹿野郎」
「そんな言い方して……悲しくなっちゃうますよ。そんな風に育てた覚えはないよ」


未だに笑うその顔を目一杯睨みつけてやろうか、ついでにひっぱたいてやろうか。飄々とした態度はどうなるだろう。なんか想像しただけで笑えてくる。なのに。


「何かへんなこと考えてる?」
「んなわけないだろ」
「あ、そうだ。このカップ麺、買ったんだ。これ美味いの? お前いつも食べてるよね。好きなんでしょ。どんなもんか楽しみー」


見せつけて欲しくない。本気で殴ろうかと殺気が込み上げてきた。そんなこと知りもしないからまだ隣で無邪気にスキップなどしている。待たなきゃよかったなんて頭に過ぎる。短気、故にこのままでは手が出てしまいそうだ。


「早く帰って食べよーね」
「………」
「どうしたの?」
「もう喋んな、馬鹿! じゃあな」


ひっぱたいておもいっきり駆け出して、置いていった。鳩が豆鉄砲を喰らったように動かない。そんなアイツを道端に停められる車のミラー越しに見て、笑ってやった。
追っ掛けてくるだろう、重い足にまた鞭打って逃げ切ろう。頑張れ、家まであと少しだと思って……。




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あきゅろす。
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