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崩壊を見てた





孤独の王がワタシに向かって何かを呟いた。
静寂が支配していた空間の中で波紋が広がるようにゆっくりと響く音。
深い深い藍色の壁も床もまるで水を司る母なる海、
はたまた幻想的な想いを馳せる闇夜の空。
散りばめられた宝石は命の星。
どちらにしろ優しく包み込まれるような雰囲気が漂い、ワタシを穏やかな気持ちにさせた。
圧迫感はなく、この空間がどこまでも続いた世界なのではないか―と錯覚させられる。心地良い。
金色に輝き煌めく目の前の二つの星は、ワタシを捉えて離さない。
だが、素直でないワタシは無愛想な態度しかとれず瞳を逸らす。
ワタシの心は此処に在らずとそう映ってしまったのだろうか。
彼は悲しげに首を傾げていた。
そんな、すまない。
本来なら微笑みを向けてあげたかったのに、最期くらいは―。
自分に嫌気がさして、重い息を吐くと、彼は笑みを浮かべてくれていた。苦笑というのだろう、呆れた顔をしていた。
それでも、哀しみの色は消せない。
薄暗いからと言ってワタシが気が付かないと思ったのだろうか。
その頬をつたう無色透明の雫。
流れ星にも似た切ない余韻を残す綺麗な光があった。
言葉になんてならない想いが溢れ出ている。
嗚呼、今、しっかりとサヨナラの表情が焼き付いてしまった。
それと同時に震えだすワタシ、らしくもない。
だからといってこれを止める術もわからず、立ち尽くした。
みっともないと拳を強く握り締める。
彼は、何もせずただ黙り込んで痩せ細って逝く遠い遠い、小さな黄金色の月を恍惚と見つめていて、上へ上へと上っていく白い吐息とその呼吸音が消えかかっていくこと受け入れ始めていた。
彼は今宵の月と同じようになるだろう、孤独の闇がワタシに囁く。
重苦しい異質な空気がどこからとなく流れ込み、彼とワタシの間に見えない境界線が浮かび上がっていった。
声などあるわけがないのにこの世界が悲鳴をあげた気がした。
周りも一転、赤と黒に染めあがる。
恐怖が襲う。危険信号が、警鐘が鳴り響く。
それらに気をとられていると、ワタシの躰がフワリと宙に浮いた。
強風に浚われるみたいにワタシは吹き飛ばされた。
はっきりとその姿だけは捉えていた。
彼の仕業だ。
地面に伏した躰を起こして彼に駆け寄ろうと目を遣れば、
辺りは光彩に包まれていた。
刹那、停止してしまう。
唯一、心だけは全てを把握している。
彼は隔離されてしまった世界へ、その向こうで虚無の笑みを浮かべ、もう魂亡き器と化していた。
青い炎が取り巻いて、揺らいだ視界。
そこでワタシも一線の光に当てられて意識を失った。
この世界の崩壊を感じながら、彼の、孤独な王の言葉がワタシの頭の中で木霊する。
突き刺さる想い。

『君がいて良かった、また逢いたいな』

それを今更、思考して絞り出された答えは簡単なのに言えない。
それに伝わることはない。赦されない。

『―…』

それでも呟いていた。
何もわからずに、虚空の彼方に向かって。
崩れ落ちる、投げ出されたワタシは何処かへ飛ばされるだろう。
是非も無い、瞳を閉ざそう。
あの月は硝子のようになって美しく可笑しいも笑って、亀裂が入る音も歌う。
砕ける振動。
光と闇が混ざり合った水玉がひとつ弾けて散っていった。




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