今も手を伸ばせば届く距離で道端の小さな花を愛でている彼女。
こんなに近くにいるのに、物理的には、。
遠く。どこか、遠く感じさせられるのは何故だろう。
深く考えて難しい顔をしてみれば、その微笑みをくれて雑念が詰まった思考を全て消去させる。
残されるのは、顔を染める朱色の生み出す感情だけ。
ダメだ、情けない。
これもわからない。
結局、また難しいそれも少し悲しい色が差す顔に戻ってしまったのだろう。
刹那、彼女の表情が無に還り、それでもすぐにあまねく優美な笑みが宿る。
どんな花なんかよりも可憐に変わる表情。
同じ人間とは思えなかった。
瓦礫だらけの廃れた街の上に広がる空は純粋に澄み渡る青。
僕と彼女に似て、不釣合いなものだった。
恨みを込めて視線を投げつけていると、お返しか―頬に当てられた冷たい雫。
ポツポツ、と。一瞬で騒がしくなる。
地面に打ち付ける雨だった。最悪。
空から逃れるように避難しようとする、僕。
彼女も同じくでも、反対の方向へ。
咄嗟に気が付いて、腕を捕まえようとする。
するりと抜けてしまう。
ああ、待って、一人にしないで。
もう一度、手を精一杯伸ばす。
一回は、空を切るも転びかけながらも彼女の服を掴む。
反動で彼女は、僕に気が付いて掌をさしだして、連れて行ってくれた。
逃れた場所はコンクリート独特のひやりとした場所。
雨宿りに文句はいえない。隣の彼女は鼻歌をし始める。
楽しそうだな、心で呟く。
濡れた横顔で「一緒だと退屈しないね」と彼女は言った。
冷えてるはずなのに熱を感じて俯きながら、うん。と肯定した。
それを聞いて満面を笑みを浮かべる彼女。
些細な幸せなのかな。と言えば、僕も頷く。
雨も悪くないなと思いながら隣の温もりを感じた。
落ちていく水玉をみて、いつまで一緒にいてくれるのだろう。
ふいに考えてみても、結局答えは出せなかった。
けれど、今はもうどうでもいいか。
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