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されど、去れ





泣いていた。何でもない何かが。
目の前を回る儚い蛍に似た光がそれを知っていると教えてるように見えた。
木陰で小さな寝息をたてている彼女がその静寂の中にいて、自分は神聖すぎる雰囲気に圧倒され、その場に尻込みしている。
いつの間にか手に握らされていた白銀に光る刃、それに映る自分が別人に見えた。
今、笑っているの――か。
では、この頬に感じた生温かくてけれど、冷たいものはなんであろうか。
動かない身体は、確かめようにも動かず、刃に映る自分は妖しく笑うだけ。目が濁っている。
そんなのを見ているのが生理的に嫌になって視線を凶器から反らす。
指先にまで蛍火が迫っていた。
嗚呼―触れるか、触れないか。
刹那に消えゆく優しい光を追うようにして自分の身体が静かに折れる。
ポチャン、とまるで水溜まりに堕ちたように、波紋を響かせるようにこの空間に自分を示す。
神聖なる静寂を穢したというのに彼女が起きることはない。そんな気配すらなかった。
ただ、僅かながらその口角が上がったかに見えた。
何故か倒れ伏した自分を受け止めてくれた大地が心地良かった。始めて安堵を感じた。
染み入るように力が、躱から力が抜けて出ていく。
群がる光の球。何故暗くなっていくのだろうか。
思わず、瞳を閉じて寝入ってしまいそうだ。
そう、瞼が急に重く感じたのか。ぼやけた世界でやっと可愛らしい笑い声が最後の最後で聞こえました。




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