BL小説。 U:日常は束の間に。 いつの間にか晴れてきていたらしい空の、未だ灰色な雲の隙間から漏れる、微かな月明かりに照らし出されていた閑柾。 静かに、やさしげな笑みを浮かべる閑柾は、 とても綺麗で――かっこよくて。 俺は束の間、呆けた様子で、目の前の男に見惚れていた。 その後、すぐに正気に戻った俺はどこか慌てて閑柾に帰宅をせびった。 赤く染まっているであろう、この顔を見せたくはなくて。 速まる鼓動の、意味が、わからなくて。 昇降口で、再び降り始めていたらしい雨に気付いて、思わず舌打ちしそうになる。 俺はその日、傘を忘れてきてしまっていた。 先程まで感じていた妙な感情も忘れ、ざあざあと音を立て地に降りたつ雨を、憮然として見やる。 『……傘、忘れたのか?』 『……おう』 いつのまにか、自分のものなのだろう闇色の傘を手にした、閑柾が隣に佇んでいた。 ホントは一緒に帰りたかったのだが、傘がないのならしょうがない。 走ってコンビニにでも寄って、ビニール傘でも買うとするかな。 そう思い、隣で傘を広げている男に声をかける。 『そういう訳だから、俺走って帰るわ!』 じゃあなと手を降ると同時に、雨の中に飛び込んでいく。 ……ハズだったのだが。 『………?』 思いの外、強く握られた腕。 腕の延長線上には、やはりというか当然というか、閑柾の小綺麗な顔が。 その小綺麗な顔が、これといって表情を表さないまま、 『俺の傘に入ればいいだろ』 言葉を、放った。 『………へ?』 目をぱちくりとさせ、口を開けたままな呆けた顔で、閑柾を見る。 いま、なんと……? 『俺の傘はそんなに小さくはないし、男ふたりが入ってもまぁ、大丈夫だろ』 言いつつ、握っていたままだった俺の腕を一度離すと、広げ持っている闇色の傘を軽く降って見せた。 ……ふむ。 確かに『そんなに小さくはない傘』ではある。 でもやはり、男ふたりでは肩がはみ出すだろうし…。 しかも、これは一般的に世間的に表面的に言わせてみれば、<<相合い傘>>とかなんとかいうやつであって……。 隣の男にちろりと目を向けてみる。 こいつは、俺なんかと相合い傘をしているところを、誰かに見られてもいいのだろうか……。 …………て。 いやいやいやいや。 まてまてまてまて。 確かに確かに、そんなとこ見られたらあれなんだけれど考えてみれば。 俺たち男じゃん!? 別に、男と女ってな訳じゃあないからもし誰かに見られたとしても、適当に言い訳できるではないか。 そこまで考えて閑柾に、負担―というか迷惑?―が掛からないことに安堵する。 ――だがそれと共にどこか胸の奥が、つきん、と痛んだ。 理由は、わからない。 . <<*#>> [戻る] |