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広い世界の夢物語


それまで、自分自身の体質、エルフとして生まれ持ったものについて考えたことはなく、彼の言葉に初めてエルフとしての自分を意識した。
眠る必要も、さして食事に執着する必要もない、病に冒されることも年老いることもない、永遠を生きるエルフ族。
改めて自身を意識すると、人の子とあまりに違うエルフの自分の身体に、ほんの僅かだが戸惑いを覚えた。
だけど、だからこそ、エルフに産まれたことを喜んだ。
忠誠を誓った主君と、かけがえのない親友と永遠に共に在るためには、国と民を護るには、エルフの身体でなければ叶わないことだから。

「……確かに、エルフの身体は便利かもしれないな。暑さや寒さのような、気温の変化にもあまり影響を受けないし、酒に酔うこともない……でも、良いことばかりではないよ」

「そうなのか?」

チーズをくわえ、サンジが聞き返す。
マルロスの言葉が意外だったのか、その表情はいつもよりずっと子供のようで、マルロスは頬を緩める。

「エルフは忘却を許されないから……悲しい記憶も、楽しかった記憶も何もかも全て、永遠に抱き続けなければならない……たとえ肉体が滅びても、魂は世界が滅びるその時まで生き続けるものだから、ずっと……忘れられない……」

「………マルロス……」

「でも私は、エルフに産まれたことを後悔したことは一度だってない。むしろ、エルフに産まれて良かったと思っている……エルフに産まれたから、主君や親友達、サンジ達にも逢えたからね」

少ししんみりとした雰囲気に、誤魔化すように笑みを浮かべてグラスを傾ける。
かつての彼と同じような反応を示すサンジに、懐かしいあの日々を思い出す。

「なぁ………マルロスの昔のこと、聞いて良いか?」

「あぁ……何だか気を遣わせてしまってすまないな」

伺うように、ぎこちなく訊ねたサンジにマルロスは笑みを浮かべて頷き、サンジのグラスにワインを注ぐ。
淡い月明かりの差し込むラウンジで、緩く瞳を閉じてあの日々を想う。


 

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