広い世界の夢物語 2 それまで、自分自身の体質、エルフとして生まれ持ったものについて考えたことはなく、彼の言葉に初めてエルフとしての自分を意識した。 眠る必要も、さして食事に執着する必要もない、病に冒されることも年老いることもない、永遠を生きるエルフ族。 改めて自身を意識すると、人の子とあまりに違うエルフの自分の身体に、ほんの僅かだが戸惑いを覚えた。 だけど、だからこそ、エルフに産まれたことを喜んだ。 忠誠を誓った主君と、かけがえのない親友と永遠に共に在るためには、国と民を護るには、エルフの身体でなければ叶わないことだから。 「……確かに、エルフの身体は便利かもしれないな。暑さや寒さのような、気温の変化にもあまり影響を受けないし、酒に酔うこともない……でも、良いことばかりではないよ」 「そうなのか?」 チーズをくわえ、サンジが聞き返す。 マルロスの言葉が意外だったのか、その表情はいつもよりずっと子供のようで、マルロスは頬を緩める。 「エルフは忘却を許されないから……悲しい記憶も、楽しかった記憶も何もかも全て、永遠に抱き続けなければならない……たとえ肉体が滅びても、魂は世界が滅びるその時まで生き続けるものだから、ずっと……忘れられない……」 「………マルロス……」 「でも私は、エルフに産まれたことを後悔したことは一度だってない。むしろ、エルフに産まれて良かったと思っている……エルフに産まれたから、主君や親友達、サンジ達にも逢えたからね」 少ししんみりとした雰囲気に、誤魔化すように笑みを浮かべてグラスを傾ける。 かつての彼と同じような反応を示すサンジに、懐かしいあの日々を思い出す。 「なぁ………マルロスの昔のこと、聞いて良いか?」 「あぁ……何だか気を遣わせてしまってすまないな」 伺うように、ぎこちなく訊ねたサンジにマルロスは笑みを浮かべて頷き、サンジのグラスにワインを注ぐ。 淡い月明かりの差し込むラウンジで、緩く瞳を閉じてあの日々を想う。 [*前へ][次へ#] |