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広い世界の夢物語


「でも、ありがとうサンジ、話を聞いてくれて。少し、気持ちが軽くなった気がするよ」

「そら良かった。また溜め込む前に話せよ?酒飲みながら付き合ってやっから」

「あぁ、そうだな…………ん?外、明るくないか?」

「え!?しまった!!朝飯の準備してねェ!!」

マルロスの言葉に、昨夜の内に仕込んでいたとは言え朝食として食べられる程の準備はまだ出来ていないことを思い出して、サンジが慌てて立ち上がる。
空になったワインボトルが倒れかけ、マルロスが手を伸ばしてそれを受け止めて立ち上がり、急いで朝食の準備をするサンジの背中を見つめる。




初めは、かつてのことを言葉にするのが怖いとすら思っていたはずなのに、サンジには不思議と話すことが出来た。
話と言うよりは、かつての日々を想って詩に歌っただけのことだったけれど、不思議な程するすると言葉が出てきた。
クゥエンヤで詩うなんて、随分と久し振りだった。
氷の海を渡ってから、中つ国に留まったエルフ達の言葉を覚えて以来、クゥエンヤを使うことは殆んどなくなった。
それでも、古い言葉として覚えているクゥエンヤは、ふとした時に零れることもある。
それでも、マルロスが自分の言葉で創った詩を口ずさむことは昔からあまりなかったから、何故今しがた歌ったのかは自分でも判らなかった。
ただ、言葉にして話すよりも、詩にする方が楽だった。
サンジが詩に何を見たのか、それは判らないけれど。
胸を引き裂くような悲しみが、少しだけれど癒されたように感じて、マルロスは微かな笑みを浮かべてサンジの背中を見つめる。

「マルロス、悪ィけど皆を起こしてきてくれるか?もう飯になるからよ」

「あぁ、判った」

振り返ったサンジは、料理人の顔をして笑っている。
不思議な程安心するその笑みにひとつ頷き、空のワインボトルを手渡してからダイニングを後にする。




鮮やかに晴れ渡った空の下、今は遠い親友を想う。
遠く離れていても、心が共にあるのか判らなくなった時でも、自分が彼らを想っていればもう寂しくはない。
信頼出来る仲間が居る、それがこんなにも心を落ち着かせる。
幸福とはきっとこんなことを言うのだろう、そう思いながら男部屋に続く扉を開け、気持ち良さそうに眠るクルーを起こす。


 

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あきゅろす。
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