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広い世界の夢物語


「…………サンジ?」

いつの間にか歌は終わり、グラスを持ったまま静かに涙を流すサンジを、心配そうにマルロスが覗き込んでいる。

「え………?あ、わり……な、何か、つい……」

「いや……」

気恥ずかしそうに、ワイシャツの袖で乱暴に頬を伝った涙を拭うサンジを、マルロスは少し眉を寄せて心配げに見遣る。

「……何てゆうかさ、マルロスが歌ってる言葉の意味?それは判んねェんだけど、その歌の景色、みたいなのが頭ん中で見えたってゆうか浮かんできて……それが実際、マルロスが見てきた、体験してきたもんなんだ、って何か知らねェけど判って」

今しがたまで、脳裏に浮かんでいた歌の情景を上手く説明出来なくて、どもりながらサンジが言葉を紡ぐ。
それを聞きながら、マルロスもふと思い出す。
エルフの詩、特にクゥエンヤと言われるエルフの古語で詩われたものには、時として聴く者の心に詩の情景を見せることがあると、昔聞いたことを思い出したのだ。

「……へェ、そんなことがあんのか?」

「うん、実際にそういったこともあるそうだよ……でも、特に上手い者の詩を聞いた時にそういったことがある、はずだったと思うんだよなぁ……私は特別上手い方でもないし」

「そうか?マルロスの歌って、クソ上手いと思うけど」

頬を濡らした涙を拭って、新しくグラスに注いだワインを舐めるように飲みながら、サンジが不思議そうに問い返す。
他のエルフの歌は聞いたことがないが、サンジにしてみればマルロス程綺麗に歌を歌う人を知らないし、こんなにも綺麗な歌声を知らない。
まして、マルロスは自分自身では気付いていないだけで、普段の話声でさえサンジには耳に心地好く響くので、ついつい聞き入ってしまうのだ。

「私はそれ程でもないよ、もっと歌や楽の上手いエルフは沢山居たからね」

「ふぅん?」

照れたように、少し頬を染めるマルロスに気のないような返事を返したサンジだが、何処か気恥ずかしそうにマルロスから目を逸らす。




「…………にしても、マルロスもこれまで、思ってたよりずっと、大変だったんだな。大変ってのも何かおかしいけど」

「そう、かもしれないな………でもやっぱり私には、どんなに辛いことや悲しいことがあっても、その全てがかけがえのない時間だったんだ。護るべき主君と護るべき国が、民が居て、親友が共に居た。私にはそれが全てで、それ以上は何も求めていなかったから」

懐かしむように、愛おしむように瞳を伏せて言葉を紡ぐマルロスの姿は、まるで一枚の絵画を思わせる。
マルロスのその想いを、僅かに見たあの幻想の中で感じたサンジには、その言葉はマルロスの本心だと伝わる。


 

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あきゅろす。
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