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イナゴ長編
強引な人は嫌い
朝、学校に行くといつも朝早くからいる松風の 姿がなかった。 …………あぁそうだ、昨日俺が殺したんだ。自 分が松風をどれだけどうでも良かったか、自分 の記憶力のなさに思わず苦笑した。 最近、心から嬉しく思い、笑ったことがない気 がする。笑ったとしても、こういう笑いしか。

『俺は、京介のそのはにかんだような可愛い笑 顔が好きだよ』

ふと、あの人が生前言っていたことが頭の中に 大音量で流れた。 その途端、ズキリ、と頭に激痛が走った。それ でも、頭にあの人の言葉は流れ続ける。

『京介、好きだよ愛してる』

『また※#といたのか?……妬けるな。こっち へおいで』

『……京介?何してるんだ?……そうか、なら 良い。俺が嫌いじゃないんだな。分かった分 かった、おやすみ』

「ぁ…………違ぅ……違うんです……あ…… あ……」

汗が流れ、頭の痛みは強くなる。 廊下にうずくまっていたため、クラスメイトを はじめ、ほかのクラスや学年の連中が集まって くる。 声はかけられるが、助けようとするやつはいな い。だが、そんなことはどうでも良い。あの人 の誤解が今は解きたい。

「おい、お前大丈夫か」

軽くハスキーボイスを含んだ声でそう呼ばれ た。 集まるやつらと同じ言葉だったが、なぜか俺は 返事していた。気分だったのか何だったのか。

頭が痛い、と言うとその人物は俺を抱きかかえ 保健室に連れて行った。 ベッドに寝かされ、掛布団をかけられた。

「お前、一年の剣城京介だよな?俺二年の霧野 蘭丸。よろしくな」

「はい……よろしくお願いします」

霧野蘭丸、確か松風と同じのサッカー部の必要 不可欠のミッドフィルダーだったような。 こいつに関する、依頼が入っていたからここで 会えて良かった。 依頼は、神童拓人とかいうこいつの幼馴染。霧 野蘭丸はどうやら同性愛者。神童拓人に恋愛感 情を抱いているらしい。 だが、神童拓人は普通に異性を愛するらしい。 彼女もいるとか。 自分が断ることも申し訳なくてできないらしい から、霧野蘭丸を惚れさせろ、とのことらし い。何とも、情けない男だ、と内心呆れつつ金 額を要求すれば易々とさしだしてきた。 恋愛に関することは、俺は高い金額を付ける。 今回の場合、50万。到底、中学生がすぐに払え る金額ではないはずなのに、こいつはだした。 それ受け取ったのが昨日。今日から、接触しよ うと思っていたがまさか、自分から寄ってくる とは。 飛んで火にいるなんとやら。

「剣城、頭痛で思い当たる節は? 」

「…………分からないです」

何故、あの人を急に思い出したのか。ここ最近 は、頭に残っているとはいえ、こんな鮮明に思 い出した記憶はないのに。 そう、考えるとまた痛みが来た。 やがて、家に電話しに行った担任が帰ってき た。

「お兄さんが迎えに来てくれるみたいだから、 ここで寝ててくれ」

「……はい」

家に帰るのか、そう思ったときベッドの脇に 座っていた霧野蘭丸が立ち上がった。

「先生、俺も早退します。剣城の兄ちゃん、夜 まで仕事で帰ってこないし」

何故、こいつがそんなこと知っているのか。そ れはどうでも良い事だったが、驚いたのは担任 の返答。 あっさり、OKを出したのだ。 でも、逆にチャンスかもしれない。こいつが俺 の看病をしている間は二人きり近づける。 静かに俺は微笑んだ。もちろん、心から嬉しく てではない。 まもなくして、兄さんが来た。兄さんは、担任 から霧野蘭丸のことを聞くとピクリと眉を動か した。 これは、俺ぐらいしか知らない兄さんの癖。兄 さんは、自分に都合の悪い事や嫌なことが起こ ると眉が少し動き、顔が少しだけ引きつる。 でも、依頼をこなすため今回兄さんには我慢し てもらうことにした。

家につき、楽な服装に着替え自分の部屋に行く と兄さんは小さく舌打ちをし、勤務先へと戻っ て行った。 霧野蘭丸は、台所へ行きなにか作っていた。 少しして、帰ってきた霧野蘭丸の手にはおかゆ があった。……別に熱を出したわけじゃないの に。

「剣城辛いだろ?食べさせてやるよ」

「いいですよ…………悪いですし」

「良いから良いから」

強引ですね、というとよく言われると笑ってみ せた。 お粥を食べ終え、眠っていると起きたころはも う夕方だった。

「よう、剣城。気分どうだ? 」

「…………もう、大分楽になりました」

そう返事すると、帰り支度をし始める霧野蘭丸 の姿が見えた。 涙腺の操作はできる、そう確認すると目を潤ま せ霧野蘭丸の服の裾をつかんだ。

「もう…………行っちゃうんですか?……さみ しいです」

彼の瞳が揺れ、頬が赤らんだ気がした。

「じゃあ、甘えん坊な剣城君の為にもう少しい てやるよ」

「…………ありがとうございます」

壊れそうな笑顔とやらを作ってそういってみせ ると、霧野蘭丸はのどを上下させ、俺に馬乗り になった。 よけようと思ったが、押さえつけられ体も万全 ではないため無理だった。

「…………神童以外にこんなに好きになるやつ は初めてだった」

そういわれ、強引にキスをされた。 それから対して気持ちよくもない愛撫をされ、 強引に体を重ねられ……。 これっぽちも好きでない相手とするのはこんな に気分の悪いものだとは思わなかった。 泣いたふりをし、あなたなんか嫌いです、今す ぐ出て行ってください、というと奴は絶望し きった顔をして家を出ていった。 出ていくと同時に兄さんが部屋に入ってきた。

「かわいそうな京介…………今日は一緒に寝よ うか」

「……うん」

兄さんは俺を抱きしめるとすぐに眠ってしまっ た。 今日はいろいろお互いにつかれた。俺も眠るま でに、そう時間はかからなかった。

翌日になり、早朝に神童拓人が家を押しかけ、 テレビをつければ霧野蘭丸がビルから飛び降り たというニュースがどこのチャンネルでもやっ ていた。 お前のせいだ、と泣き叫ぶ彼に一言告げると、 昨日の霧野蘭丸のように絶望しきった顔で家か ら出ていった。

「あなたが惚れさせろと言ったから俺はそうし たんです。別に、付き合えなんて言ってません でしたから断ったらこうなっただけです。事の 発端はあなたですよ? 」

翌日だろうか、相次いで「中学生相次いで二人 死亡、原因いまだつかめず」という新聞の記事 を兄さんがニコニコと笑い続けながら見ていた のは。












強引な人は嫌い。あなたが、俺に対してだけ独 占的で、強引だったことを思い出してしまうか ら。

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あきゅろす。
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