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Dream3
Stage1-1


黒の教団、訓練場最奥。


――キンッ

――ガッ


金属音が森の中に響き、二つの影が交じり合いながら、再び離れる。1時間ほど前からそれの繰り返しであった。

「――…っと、今日はここまでにしよう。そろそろ皆が起きる」
「――チッ」

舌打ちをする少年の姿を見るのも、少女は恒例となっていた。それは、2年経った今でも決着が付かないからだということもあり、苦笑するしかなかった。

彼女は結っていた髪を背中辺りまで下ろし、少年に向き直る。

「食堂、行こう。汗をかいたらお腹が空いたみたい」
「ああ」

2人が去ったその森は、再び静けさを迎えていた。






Stage1 Change the world 1





少女の名は桐生燐。今年で16歳になる日本人である。ただ、母親がフランス人の為にその瞳は翡翠色であった。
日本人とは言っても、300年ほど前から日本という国はAKUMAの巣窟と化しており、日本へ行ったことは一度もなかった。隣を歩く長身の少年もまた同じであった。日本人なのにその故郷へ行けないのは、酷く物悲しさを覚えるものだった。



食堂に着くと、時間帯が早い為か、いつも溢れ返るほどの人が半分近く居なかった。

二人はいつも通り、カウンターへと一緒に向かう。その光景を、周りの人間は遠巻きながらも見つめる。それは、二人が美人で、少年の方の目付きが鋭いからだろう。
少年は教団の中でも一番付き合いにくく、ほとんどの人間が恐れているのだ。更に、色々な人種が居るこの空間で、日本人というのはとりわけ珍しい部類に入り、片手で足りるほどの人数しか居ない為でもあるだろう。

「蕎麦一つ」
「私はうどんと抹茶プリンを一つ」

同時に言っても普通聞き取りにくいのだが、ここの料理長は違った。

「オッケーvあっちで待っててね〜ん」

体格は寧ろ少年よりも良い方な彼は、オカマだった。料理の腕前は超一流で、洋・中・和その他もろもろ何でも作れるので、周りは何も言わないのだ。


二人が揃って席に着くと、周りが少し騒がしくなっていた。それでも尚二人の近くに誰一人近寄らないのは、それほど少年に関わりたくないと言うことだ。
ただ、一部を除いては。

「燐〜!ユウ〜!おっはようさー」

オレンジ色の髪を逆立たせてそれをバンダナで留め、右目に眼帯をした長身の男が場違いなほどの陽気な声を上げて近寄って来た。手にしているのは、ほかほかのホットケーキである。

「おはよう」
「オレのファーストネームを言うんじゃねぇ!」

今にも剣で切り掛かりそうになる黒髪の少年の名は神田ユウ。何故かファーストネームで呼ばれるのを嫌っているが、燐には何も言わない。
無口(物静か)同士、落ち着ける空間を共有する仲である。

冷や汗を流しながらも緩い表情を変えないオレンジ髪の少年の名はラビ。ブックマンと呼ばれる裏の歴史を管理する者の後継者らしく、本名はわからない。
お互い読書好きと言うこともあり、燐は本が部屋の大部分を占める彼とその師匠の所へ度々お邪魔していた。ちなみに彼の方が神田よりも長身の為、話をする時少し首が痛くなる燐であった。

三人は同い年のエクソシストということもあり、よく一緒に(神田は嫌がるが)過ごしていた。

「燐〜!ユウがいじめるさ〜」

ラビは情けない声を出して燐に抱き付いて来る。ちゃんとしていれば格好良いのに、このノリの所為で半減してしまっている。

「…懲りないね、ラビも」

溜め息をついて、微笑する。途端にラビの頬が朱に染まり、神田の眉間に皺が寄る。当の本人はいつものことだと全く気にしていないのだから、少し虚しくもある。

「だって、燐だけなんてズルイさ」

ちょっと拗ね気味のラビの頭を、燐は優しく撫でる。それを嫌がるどころか、彼は目を細めて気持ち良さそうにしている。

「(可愛い奴)…気まぐれだからね、ユウは」
「猫みたいさね」

その話を聞いていたのか、神田は反論した。

「うるせぇ、バカ兎」
「だ〜か〜ら兎じゃないし、バカはユウの方さー!」
「んだとてめぇっ!」

遂にキレた神田が愛刀を抜刀した。

「(…平和だな)」

一人冷静に、それでも和やかな気持ちで見つめる燐であった。



それが、最後の団欒だとは、誰も知り得なかった―――…





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