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Dream3
Stage2-3


二人の間に沈黙が訪れる。だが、雲雀の一言によって崩れ去った。


「…君、自分が何を言っているかわかってるの?」




確かに、「自分は異世界から来た」なんて頭の痛い子としか言いようが無い。けれど、今の燐にはそうとしか考えられなかった上に、言い表せない。


「…わかってるよ。私はこの世界ではイレギュラーな存在。でも、元の世界に帰れるかもわからない…中途半端な位置」

そう言った彼女の表情は憂いを帯びていて、雲雀は一瞬息を呑んだ。




「…でも、並盛の秩序を乱す者は――咬み殺す!」


口癖と共に、雲雀はトンファーを取り出して燐に襲い掛かった。その表情は、まるで新しい玩具を与えられた子供のように輝いている。

燐はあることに気が付いた。


「(この人は、戦いの中で自分の価値を見出し、存在を示している…ユウと似てる)」






常人のものではない速さで繰り出されるトンファーを、紙一重でかわしていく。

実はトンファー使いと戦うのは初めてなので、軌道や呼吸を読み取るのに時間が掛かっているのだ。


「(剣よりも更に懐に入って来る…超接近戦タイプ)」


冷静に分析していきながら、燐は彼のスピードが上がっているのに気付く。

「(…速いな)」



神田ほどではないが、歳相応のものとは程遠い。まだ粗いが、資質は十分なので磨けば益々良くなるだろう。


「ねぇ、どうして攻撃して来ないの?」


不満げな表情で雲雀は聞いてきた。


「未知の力と戦うには、まず相手の動きを読むことから始めなければならない――足元をすくわれない為にもね」



もっとも、彼も神田もそんな難しいことは考えずに、本能の赴くままにその力を振るうだろうけれど。

だが生憎と、燐は男と戦うのに単純な肉弾戦は絶対にしない。
男女の基本的身体能力を知っているから、なるべく自分が有利になるように小細工だって仕掛ける徹底振りだ。



「ふぅん。じゃあ、嫌でも反撃させてあげるよ」


ニヤリと笑ったかと思えば、彼のトンファーから鉤爪のようなものが飛び出て来た。



「!」



頬に少しかすりながらも、燐は一足飛びで後方へ逃げる。仕込みトンファーを見るのは初めてで、一瞬反応が遅れてしまった。

こんな時、神田は鼻で笑って「何油断してんだ、馬鹿」と言うだろう。そして、ラビとリナリーは心配して騒ぎ出すのだ。

燐は自分も甘いなと思う。こんな時にホームシックとは、案外余裕なのかもしれない。


「…少し、貴方を甘く見ていた」


その言葉に雲雀はピクリと反応する。
並盛町最強と謳われている彼にとって、手加減されるというのは初めての経験だった。

「面白いね、君」

心底嬉しそうに呟くが、彼女には聞こえていない。






Stage2 Boy meets Girl 3











だんだんと押され始め、燐は素手でトンファーに対抗出来ないと判断し、耳に手を添えた。
それに気付いた雲雀は首をひねる。


「何ソレ?そのピアスが何か出来るワケ?」

「ご名答。――イノセンス発動・死鎌《デスサイズ》!」


ピアスが輝いた瞬間大鎌が現れ、それを振るう。



――キィンッ



その大鎌はトンファーを弾き返した。何処からともなく現れたそれを見て、雲雀は目を見開く。


彼女の体と同じくらいの大きさで、刃も柄も真っ黒なそれは、死神の鎌のようで目の前に居る少女が持つには似つかわしくない。
しかし、かなりの重量がありそうなそれを、彼女は軽々と片手で回して見せた。


「ワォ。立派な武器じゃないか」

「それはどうも」




――キンッ


――カンッ




すさまじい攻防を繰り広げながら、本人達は暢気な会話をかわす。

「でも、どうやって取り出したんだい?折り畳み式じゃないだろう」



それはそうだ。大鎌を折り畳むことなんて出来るわけがない。
燐は微笑を浮かべて人差し指を唇にあてた。


「企業秘密」

「!」


一瞬、雲雀の力が緩む。
それを見逃さず、燐は彼のトンファーを弾き飛ばした。


「――チッ」


舌打ちをする雲雀の背後に回り、首筋に刃をあてがう。


「Checkmate」


雲雀に額にツーと冷や汗が流れる。息を切らせている自分に対して、彼女は全くの正常さである。


「(…強い)」

負けたにもかかわらず、笑みを浮かべている彼に、燐は首を傾げる。

大鎌を下ろして顔を覗き込んでみれば、ガシリと右腕を掴まれて彼との距離が一気に縮まる。


「!?」


華奢な体格なのに、掴んだ手の力は燐よりも強く、振り払うことが出来ない。
これでも一般男性よりは強いつもりだった彼女にとって、同い年くらいのエクソシストでもない一般人に負けたのは軽くショックだった。


仕方なく顔を上げれば、そこには整った顔があった。


「…ぁ」


日本人特有の美しさ、とでも言うのだろうか。
友人である神田ユウも純日本人と言った感じの“美人顔”だったが、彼は美人と言うより“男らしい綺麗さ”があったのだ。

目つきが悪いのは似ているのに、顔自体は全く別物。神田と父親以外の日本人男性は初めて見た燐にとって、新鮮さは勿論のこと、見惚れるには充分だった。

それに気付かない当の本人は、彼女の顔を真っ直ぐ見て口を開く。


「君、気に入ったよ」


そう言って浮かべる妖艶な笑みに、燐は柄にもなく顔が熱くなるのを感じた。


「あ、りがとう…」


「名前は?」

「私は――…」


名乗ろうとした瞬間、異世界へ来た時と同じ強い光に体が包まれる。

雲雀は目を丸くして何が起こっているかわからないようだが、燐は二度目と言うこともあり、割と落ち着いていた。


死鎌《デスサイズ》をピアスに戻し、溜め息を吐く。


「移動の時間みたいだから、これでお別れ」

「!」


彼の切れ長の瞳が最大に見開かれる。



「私の名前は桐生燐。また会えた時は、ファーストネームで呼んで」


まるで再会するということが当然だとでも言うようである。


「僕は――…」


雲雀が言葉を紡ぐよりも早く、彼女の体は光の中に消えて行った。


掴もうとした手を握り締め、消えた場所を見据える。

「――燐、また会いたいな…」

クスリともニヤリとも言える微笑を浮かべ、雲雀は学ランを翻して並盛中へ帰って行った。





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