Dream1
Act.7 小さな約束
父の話を聞いた翌日、葵は幼児らしからぬ表情で並盛幼稚園へ来ていた。
弟は姉と手を繋いでいるので終始ご機嫌だ。
「ほら、綱吉。教室行きなよ」
「やだ!まだあおいちゃんといっしょにいる!」
駄々をこねる弟にため息をつき、「これがボンゴレ10代目になるの…?」と呆れていた。その後担当の先生に引き取られるまで葵の傍を離れなかった。
後々思えば、彼は何かを感じ取っていたのかもしれない。
【ひよこ組】
子供達がきゃっきゃと騒ぐ中、葵は物思いに耽っていた。いつもと違う雰囲気を悟って、雲雀がデフォルトの無表情でやって来た。
「ねえ、何があったの」
疑問ではなく確信を伴った言い方。本当に鋭い少年だと葵は思った。
「――…もし、しばらく会えないって言ったらどうする?」
言った瞬間後悔した。彼に言っても仕方ないのに。
「ごめん、冗「いやだね」…え?」
“冗談”だとごまかそうとしたのをハッキリとした声音に遮られる。俯いていた顔を上げると、二対の黒曜石がじっとこちらを見つめていた。
「きみは僕といるべきなんだ。だからどこにも行くひつようはないよ」
ぎゅっと握ってきた手は低体温の彼をにしては高いように感じた。
「きょう…や……」
そけへ耳をつん裂くような悲鳴が聞こえた。
―――デジャヴュ
葵はすぐさま教室を飛び出して行った。その後を雲雀は眉間に皺を寄せつつ追った。
「綱吉!!」
勢いよく飛び込んだ【みるく組】には――…
玩具を取られて泣く弟の姿があった。
葵はほっとして後ろへよろけた。それを呆れ顔の雲雀が支えてくれるのであった。
「あいつらひよこぐみのひばりとあおいだ!」
「か、かみころされる!!」
二人の登場に、一気に子供達が逃げ出す。
「…そうしょくどうぶつ」
ぽつりと零す雲雀に葵は決意を秘めて向き直った。
「きょうや」
「なに?」
――もう綱吉や周りの大切な人を傷つけたくない
「わたし、イタリアへ行く」
「!!」
前フリをしていたせいか、彼はその真意を理解した。
―〈葵とはしばらく会えない〉
「…どうしてだい?」
「…弱いから」
そう、自分が弱いから綱吉やみんなを守れないのだ。
彼女の意思の固さに雲雀もひとつの覚悟を決めた。
「じゃあ僕はきみがもどって来るまでに、この並盛をだれにも手を出させないように守っていくから」
その言葉は子供の戯れ言などではなく――
「―約束だよ」
「そっちも早く強くなって帰ってきてよ」
ここに小さな、けれど固い約束が誓われた。
――この三日後、葵は父とイタリアへ飛び立つことになる
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