Dream1
Act.3 黒猫と出会う
翌日、少々納得行かない様子で葵は母親と共に並盛幼稚園へとやって来た。ちなみに綱吉は父親とお留守番だ。
その名の通り、並盛幼稚園は校舎も園児の人数も至って平凡だった。
本当に手続きは済ませてあったらしく、簡単な挨拶だけ交わして母親はさっさと帰って行ったのだった。
そして30分後、葵は【ひよこ組】の園児の前に立っていた。
ぐるりと部屋を眺めて一息。
「(アホ面ばっか…)」
なかなか黒い考えを抱きつつ、とりあえず笑顔で挨拶をする。
「はじめまして、さわだあおいです。しゅみはどくしょ、きらいなものはよわいもののむれです」
一瞬シンとなるが、先生はハッとなって手を叩く。
「み、みんなあおいちゃんと仲良くしてあげてね」
全員が「はーい」と返事をする中、葵は我関せずと端の席に座った。
その時視線を感じ、振り向くと幼児にしては鋭い目つきの少年と目が合った。
「(空気が違う)」
すぐに逸らされてしまったが、自分と同じ匂いがした。
入園して何日か経つと、葵の性格を周りもわかってきたらしく話しかけることをしなくなった。先生すらも避けている。
「(案外早かったね)」
家から持ち込んだ本(【これで君も最強★武器全集】【世界の毒物大百科】など)を読みつつ、チラリと目をやれば奇異なものを見る目とかち合う。すぐに逸らされるが、チラチラとよこす視線が鬱陶しい。
パタンと本を閉じてもっと落ち着いて読書ができる所へと移動することにした。
いわゆる【お遊戯広場】の隅の一番大きい木の下に葵は腰を下ろす。そしてまた本を読み始めるのであった。
「ねえ」
ふと顔を上げれば、真っ黒な髪に鋭い黒曜石の瞳の幼い顔が視界に入った。
「そこ、ぼくのとくとうせきなんだけど」
「…あなたのなわばりってこと?」
内心子供らしくないなと自分のことを棚上げしていた。
「…なわばりか、うん、わるくないね」
フフッと笑った顔が可愛いと思ったのがその数分後に撤回することになるなど、葵は思いもしかなった。
――これが葵と黒猫との出会いであった。
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