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Dream1
Act.4 小さな王子様

イタリアのボンゴレ本部で実家にも帰らず黙々と修業を重ねて約4年。葵はその才を発揮し、銃からナイフ、爆弾などあらゆる武器を扱えるようになり、その器用さから暗殺使いのようであった。
特に得意としたのは関節剣(俗にいう蛇腹剣)で、その多彩な変化を持つ扱いの難しい武器を巧みに操るのだった。

父の家光はそんな成長の早すぎる娘を少々不安に思いつつも、止めさせることはしなかった。














陽気な日差しの中、葵は毎月出している弟への手紙を書き終えていた。便せんにシールを貼ると、近くで見守って(監視にしては気配が丸わかりなので)いた人に渡す。彼女自身が郵便に出すことはできないので毎回人に頼むしかなかったのである。
その人物の気配が消え、葵は息を吐く。


「リボーンの訓練まであと1時間ある…」


アルコバレーノであるリボーンには週3回の割合で修業を見てもらっている。スパルタだが優秀な家庭教師であるので確実に実力が上がっていることもあり、葵は割と彼が好きだった。

やることも終わってしまい、暇になった葵はふらふらと庭の奥へと歩いて行った。










たどり着いたのは、日が当たり花が集まっているところで、日向ぼっこをするに最適な場所だった。腰を下ろして眼を瞑ると、世界が和らいでいくようであった。

そんなまったりとした空間を壊したのは、数本のナイフだった。体を左に傾けてそれらをすべて避け、飛んできた方向を睨む。
一瞬ボンゴレの敵対ファミリーかと思ったが、優秀なボンゴレファミリーがそう易々と侵入を(しかもこんな奥地まで)許すはずがないと考えを打ち消した。


「――誰?」


のどかな場所にそぐわぬ冷めた声音は、彼女を立派なマフィアだと証明していた。


「へえ、やるじゃん」


声の主はサラサラの金糸が目を隠すほどその顔を覆い、その頭にちょこんと乗ったティアラが目立つボーダーの服を着た同い年くらいの少年だった。白い歯を見せて笑う姿は“いたずらっ子”そのものだった。


「ねえ、アンタ侵入者? だったら殺すよ、ししっ」


何が楽しいのか、数本のナイフをちらりと見せて笑う少年に葵は眉を顰めた。間違いなくマフィア関係者である。


「…違う。わたしはボンゴレファミリー門外顧問・沢田家光の娘の葵。数年前からここでお世話になっているの」

「家光の娘〜!? 似てねぇ、しししっ」


今度は腹を抱えて笑っている。


「君は? 見たところボンゴレの関係者のようだけど」

「オレは独立暗殺部隊ヴァリアーのベルフェゴール。王子だぜ」


【独立暗殺部隊・ヴァリアー】…最もボスに忠誠を誓っているというボンゴレ最強の部隊であり、任務達成率100パーセントのある意味別格の集団である。
難易度の高い任務をこなし、その人間離れした能力を“ヴァリアークオリティ”と呼んでたのファミリーからも恐れられている。


そのことを家光やリボーンから教えられていたが、自分と同じ年頃の子供がいるというのは衝撃だった。そして“王子”とは…
リボーンに聞くことが増えたと溜息を吐くのであった。



「王子と同い年くらいのやつ、初めて見た」

「わたしもだよ。…ここにはよく来るの?」


物珍しそうに喜んでいる彼がヴァリアーの隊員とはとても思えない。


「んー、今日はたまたま来ただけだけど…お前がいるなら来ることにする」
「…え?」

「葵は王子の“お気に入り”決定〜」


勢いについていけずぽけっとしている彼女をよそに、ベルフェゴールは機嫌良く去って行ったのだった。
影も形も見えなくなったその方向を見たまま立ちつくし、葵はげっそりと一言呟く。

「―――嵐が去った」




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あきゅろす。
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