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長編夢
24話 転機が訪れる
『秋か〜』


夏休み、早かったなぁ。まぁ課題もやったけど、結構遊んだ。

「おはやっぷー!皆久しぶりね!」

明るく挨拶をする林檎先生。まあ多少皆帰省していたりもしたけど、顔を合わせているから久しぶり感はあまりない。

授業の話などをサラッと説明してから、林檎先生が言った。

「そろそろ、卒業試験のパートナー見つけてね!」


あああああ!!そういえば早乙女学園はそういう制度だった!


「アイドルコースも、作曲家コースもパートナーについてはAクラス、Sクラスの制限はないわよ!」

パートナーか。正直見つからないってことはないとは思うんだけど。何だろう、教室内でそわっとした空気を感じる。

スナイパーに狙われているような気分になるのは自意識過剰なのか。

「雪哉!俺のパートナーになって!」

「俺も誘おうと思ったのだが」

「僕も、雪哉くんのパートナーになりたいです」


自意識過剰でもなかったと言うべきなのか、なんなのか。

『えー、と』

「抜け駆けはズルいね。雪哉、オレと組まない?」

Sクラスの授業も終わったみたいだった。

「あ、レンずりぃ!俺も雪哉と組みたい!」

「私もです。後悔はさせません」

わー、何だこれ。


『......考えさせて下さい』


俺にはそう言うのが精一杯だった。誰か一人なんて、急に選べないし、何より。あの卒業試験、シャイニング事務所新人発掘オーディションだ。相当なプレッシャーがある。

まだ卒業式なんて、先の話なのに、ずんと体が重くなった気分だ。



「雪哉くん?どうかしましたか?」

『春歌、』

中庭で一人で寝っ転がっていたら、不審に思ったのか春歌が隣にきた。

「何か難しい顔をしてたみたいですけど...」

『あ、うん...』

「さっきのパートナーの話ですか?」

意外に直球で切り込まれた。とりあえず、頷いておく。

「皆さん素敵な方達ですから、今すぐ決めるというのは中々難しいですよね」

俺に、音楽の才能があるかは分からないけど...正直皆何で俺を選んだんだろう。

仲が良いから?分からないけど、何だかいざこの状況に立たされてみると本当にどうしたら良いのか分からない。

『そうだな...』

「雪哉くんが、決めたのなら皆さん多分応援してくれると思います」

優しく微笑みながらそう言われた。うん、惚れてしまいそうだ。


「雪哉くん?」

『春歌、...俺と一緒に曲、作ってみないか』


急に俺がそんなことを言ったものだから、春歌は目を大きく見開いていた。

完全に話も繋がっていないのに何てことを言ってしまったのか。どう取り繕えばいいか、迷っていたら春歌から返事が来た。

「わあ...いいんですか!やりたいです!」

『え、こっちこそタイミングおかしかったけどいいのか?』

「この前も皆さんと一緒に曲を作って歌いたいってお話もしましたし、それの一歩になるかもしれません。私は是非やりたいと思います!」

こんな気持ちの良い返事が来るのは思わなくて。思った以上に、嬉しい。

『えーと...曲のことなら多分大丈夫だと思うけど、お互い妥協しないで言いたいこと言おう!あ、後春歌も俺に敬語じゃなくて友千香とか翔みたいに話すようにして欲しい』

「は、はい!じゃなくて、うん!」

春歌と曲を作ってみたいっていうのは、どんな気持ちからだったかと聞かれたらある意味嫉妬と恐怖からだったのかもしれない。

春歌の作る曲で皆救われていったのを、見たことがあるから。俺にそんなことが出来るのか、とか。

でも、今春歌に言われた言葉で吹き飛んだ。だから、自分の中にあったもやもやしていた気持ちも春歌に正直話した。

「何か私達、お互い遠慮していたのかな」

『...かもな』


良く遊ぶ中では数少ない作曲家コース。やっぱりある程度のライバル意識みたいなものがあったのかもしれない。

「私、雪哉くんも、皆さんのことももっと良く知りたい。だから、よろしくお願いします」

『こちらこそよろしくお願いします』

二人で頭を下げてから、吹き出すように笑った。

ただ、一応男女ではあるのでお互いの部屋は使えないのは少し痛い。

例え恋愛してなくても流石に怪しいと言われたら言い返せなくなってしまう。なので、放課後の時間を使ったりして曲作りを進めることにした。


「ここは、こっちの方がいいかも?」

ポロンと鍵盤を鳴らす春歌。

『...いいな!あ、後ここも...』

「凄い!私だったら思いつかなかったよ」

『なあ、春歌。言及はあえてしなかったけど、この曲のイメージって』

「一十木くん、翔くん、聖川さん、一ノ瀬さん、四ノ宮さん、神宮寺さんです」

『だよな』

そんな風に曲作りを進めて、ようやく完成したころには一ヶ月くらいは経っていた。

『かなり、大変だったな』

「授業と同時進行だったから余計...」

お互い寝不足で作っていた。

『皆に、聴いてもらうか』

「うん」

最近は作曲にかかり切りで、皆少し寂しそうな顔をしていたので素直に来てくれるか心配だったけど、案外普通に来てくれた。

『春歌と二人で作ったんだ』

二人で一緒にピアノを弾く。

今の俺達の精一杯は、皆にどう届くだろうか。怖いけど、それに打ち勝ちたい。

最後の一音を弾いた。

二人で顔を上げたら、皆惚けた顔をしていた。

『だ、大丈夫か?』

「皆さん...?」

声をかけた瞬間に皆ハッと我にかえって。

「この曲、すげぇ...」

「歌いたいです、この曲」

俺と春歌の肩をわりと大げさに揺らしながら皆口々にそう言ってくれた。

「卒業試験、この曲で皆で歌いたいね」

レンがそう口にすると、それだ!と皆が口を揃えた。

「七海、雪哉。いいかな?」

『いいも悪いも...』

「私も雪哉くんもわりとそういうつもりで、作ってたので...むしろ私が皆さんの中に入っていいんですか?」

何言ってんだよ、いいに決まってんだろ!と翔が言った。

「こちらがお願いしたいくらい素晴らしい曲なんです」

無闇に春歌と誰かをくっつけようとかそんなつもりはないけど、それでも俺がいることによって春歌の曲を聴く機会は減ってしまったように思った。それはやっぱり、勿体無いと思ったから、少し強引に一緒に曲を作ったというのもあった。

『まぁ、学園長の許しが後は必要かな...』

それが結局一番難しいのかもしれない。作曲者が二人いて歌うのが六人。


「善は急げだ」


真斗に手を引かれ、学園長室に皆で向かう。


どうか、承諾が得られますように、と思いながら。

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