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長編夢
19話 可愛いあの子は兄思い
今日は午前授業だけだったので、部屋に真斗が遊びに来た。

『真斗が一人で俺の部屋に来るの、結構珍しいな』

「そういえば、そうだな。一十木はかなり来ていると言っていたが」

『あー、音也は確かに良く来るなぁ』

一人でいるより、誰かといる方が好きなんだろう、と勝手に思っている。

「一十木のそういう一直線なところは尊敬に値するな」

『俺も思う』

喜怒哀楽を隠さないのは凄いと思う。

『でも真斗もわりと自分の意見ははっきり言うよな』

「何でも受け入れてしまうと、本当に意見を言いたい時に言えなくなることもあるからな、心がけている」

他人を尊重した上で、というところは真斗らしい。そんな風に談笑していたら、ドアをノックされた。

『どうぞー』

ドアの先には、じいがいた。真斗が心配で来たんだろうか。


「お兄ちゃま!」



じい、妹キャラになる。



というのは冗談で。小さい女の子の声がした。

「真衣!?」

まだ本当に小さい女の子。そういえば、なんとなくの記憶を呼び起こすと、真斗には妹がいたはずだ。

真斗に向かって真衣ちゃんは駆け出していき、抱きついていた。

「じい?何故真衣が?」

「最近中々帰ってこられないぼっちゃまに、お嬢様が悲しんでいらっしゃったので...叱るならじいを」

「そうか...真衣、心配をかけてすまなかったな」

「お兄ちゃまに会いたくて...ごめんなさい」

何だあの光景。神々しさと可愛さで眩しい。

「あっ、雪哉すまない。俺の妹の真衣だ。ほら真衣、挨拶をするんだ」

ここが俺の部屋だと思い出したらしい真斗は今度は俺に向き直った。

「お兄ちゃまの妹の聖川真衣です」

少し真斗の陰に隠れながら可愛い挨拶をしてくれた。俺も少しかがんで挨拶をすることにした。

『お兄さんの友達の白戸雪哉です。真衣ちゃんよろしくね?』


「......雪哉、お兄ちゃま?」


『天使か何かかな?』


「真顔で俺に問いかけるな。まあ、大切な妹だ」


その言葉を聞いて、真衣ちゃんは嬉しそうに笑っていた。お互い大好きなんだろうな、相手のこと。

『それにしてもよくこの場所に真斗がいるって分かりましたね?』

真斗の部屋に行っていないことに気づいたんだろうけど。

「ぼっちゃまの部屋を訪ねたら神宮寺家の三男坊がおってな...気にくわんが聞いた」

気にくわんって。


「あの男お嬢様に向かって歯の浮く言葉を...」


「奇襲をかけにいく」

『落ち着こう』


大方可愛いレディだね、くらいの話だろう。レンだってそんな見境ないわけない。

「レンお兄ちゃまは悪くないの」

「真衣...」

真斗の服の裾をキュッと掴んでる真衣ちゃん可愛い。そしてちゃんとレンをフォローしてあげてるところも良い子過ぎて泣けてくる。

「......お兄ちゃまと、一緒にいたいな」

今日は真斗と遊ぶ予定だったけど、もちろん真衣ちゃん優先にするつもりだ。

「そうだな。どこか、遊びに行くか?雪哉、すまないが今日の約束は」

「雪哉お兄ちゃまも、一緒に行きませんか?」

『......俺?いいの?せっかくお兄さんと遊べるチャンスなのに』

まだ少し恥ずかしがり屋なところがあるのかと思ったけど大丈夫かな。

「大丈夫です。お願いします」

『あ、いやこちらこそ』

「そういえば雪哉殿!以前頂いたぶらうにーとやら、美味しかったですぞ!」

『あ、本当ですか?じ、じい、さん?が持ってきて下さったお茶菓子も美味しかったです。ありがとうございます』

「じいで大丈夫だ」

じいの方を向いたら良いですぞ、と言われた。

じいさんって呼ぶのも何だかなぁとは思ったので良かった。自分のおじいちゃん呼んでるみたいだし。

『じゃあ、どこか行ってみようか』

「はい!」

俺にはちゃんと敬語で話すあたりしっかりしている子だ。

「お兄ちゃま、ぶらうにーって何?」

「ああ、食べたことはあるとは思うがチョコレートが練りこんであるケーキみたいなものだな」

「チョコレート、ケーキ...」

ああ、真衣ちゃんがキラキラとした目で俺を見てくる。

「雪哉殿のぶらうにーは絶品でしたな」


じいからの煽り。しかも絶品て言うほどではないと思う。

『今度作ったらお兄さんに渡しておくね。ちゃんと俺も毒味はしておくから』

「いいの?」

あ、ちょっと喋り方がくだけてきた。これはこれで、可愛い。

『まあ、いつになるかは分からないけど、約束』

指切りをして約束をした。何か重大任務になった気もするけど喜んでるからいいか。

「着いたぞ」

じいの車で連れてきてもらったのは、シャイニング動物園。何でもやってるなシャイニング事務所は。

あの辺のライオンとかまさかサーカスで火の輪くぐりとかしてないよな。

「わあっおサルさん!」

のほほんとしたサルを見て興奮してる真衣ちゃん。何故そのチョイス。

「あっちの方にふれあい広場があったぞ。ウサギとかモルモットがいるらしい」

「ウサギさん!?」


目を輝かせてふれあい広場に向かう二人。ちょっと写真撮らせてくれないかな。

「お兄ちゃま、ふわふわー」

「ああ」

『二人ともー、はい笑って!』

携帯のカメラを構えたら二人共嫌がる様子もなく、ウサギと共に笑って写ってくれた。もう現像してアルバムに貼りたい。


『後で、現像したら写真あげるな』

「携帯で撮ったものを現像出来るのか!?」

『出来るけど...』

「ハイテクだな......」

面白い。

「あ、あの...真衣も、欲しいです」

『もちろん』

真衣ちゃんの部屋の写真立てに飾ったりするのかな、と和やかな気持ちになる。

「せっかくだ、雪哉も一緒に写真に写ろう。じい、シャッターを押してくれないか」

カメラを起動させて、シャッターの切り方をじいに教えた。

「これも、後で画像を送ってくれないか」

『了解ー!あ、真衣ちゃんあそこにはひよこもいるよ!』

「本当ですか!」

「四ノ宮が好きそうだな」

指でひよこの頭を撫でながら真斗がそう言った。確かに、ピヨちゃん好きの那月は普通のひよこも好きなんだろうなぁ。

そして少し遠くの方で人だかりが出来ていると思ったら、テレビの撮影をしているみたいだった。


「ここが、シャイニング動物園!見所は...」


って寿嶺二!?書類渡されたぶりだなぁ。

多分あっちは俺のことは覚えてないだろうけど。

明るいテンションで次々に動物を紹介しているようだ。

周りにお客さんもいても良いのか、面白いことを言ってはドッと笑いが起きていた。ああいうのも、一種の才能なんだろうか。


「俺もアイドルになったら、ああいう風に人を笑顔に出来るだろうか」


少し不安げに真斗がそう言った。

『...まぁ、真斗には真斗の持ち味があるから、それで人を笑顔にさせられるんじゃないかな』

「雪哉も、笑ってくれるか?」

『当たり前だろ』

「そうか。ありがとう」

バラエティーとかに出ている真斗がいつか見られるといいなぁ。そんなこんなをしている内に、夕方になってしまった。



「お嬢様、そろそろ帰らないとです」


少し残念そうな顔をしていたが、素直に頷いている。


「雪哉お兄ちゃま、お耳貸して?」

『ん?』

膝をついてしゃがんだ。

「お兄ちゃまね、お家に帰ってくると雪哉お兄ちゃまのお話いっぱいするの。お兄ちゃま、雪哉お兄ちゃまのこと大好きみたいだから、これからも仲良くしてあげてください」


こっそりとそう言われて。


「お兄ちゃまには、今のお話秘密ね?」

うん、と頷きながら俺も真衣ちゃんにこっそり耳打ちした。


『俺もお兄さんと仲良く出来て嬉しいよ。真衣ちゃんもこれから仲良くしてくれるかな?』

「っはい!」


ぎゅうっと抱きつかれた。

嬉しいけど、真斗に成敗!とかいって怒られたらどうしようかと本気で思った。そしてじいと共に帰っていった。



「真衣は何を雪哉に耳打ちしていたんだ?」


やはり気になったのか、真斗に聞かれた。


『んー...真衣ちゃんの大好きな人のお話』


「な、何っ!?」

随分焦った顔で真衣に好きな人が出来ていたなんて、と独り言を呟いていた。

お前のことだよ、という言葉はちょっと面白いから少しの間飲み込んでおいた。

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