短編夢
黙って受け入れてしまおうか(黒子/男主/受主)
※黒子のちょっと薄暗い愛注意。
忠告は、ちゃんと聞いとくべきだと思った。
「これ、お願いします。」
頭上から声がするので、顔を上げた。
『中々気配に気付けなくてゴメン黒子くん。』
図書委員の俺は、手続きをしながらそんな会話をした。
「いいんですよ。」
『そう?はい、部活頑張れ。』
いつも大体こんな感じのお決まりの会話をするんだけど。
「はい、ありがとうございます!」
黒子くんは予想以上に喜んでくれている、気がする。
いや、気のせいか。
『ふー。』
「ため息か?幸せが逃げるらしいぞ。」
『そんなんじゃないよ。』
休み時間に深呼吸したら、隣の赤司くんに笑われた。
「藍沢は一見真面目そうに見えるのに、その気だるげな表情を俺に見せる所が好きだよ。」
『赤司くんのファンに言ってあげるといいよ。』
周りの女子が小さくキャア!と騒いだのは聞かなかったことにしよう。
「赤司くん、お待たせしまし・・・藍沢くん?」
『あ、黒子くん。』
いつも通り、ぬっと目の前に現れたのは黒子くんだった。
「おや、遊羽と知り合いなのかい?」
『!?』
俺、名前で呼ばれたこととかない筈だけど。
後、何か顔近い。
「・・・ええ、図書室で良く会いますので。」
何か機嫌が悪そうに見えるのは、気のせいか。1トーン声が低い。
「これ、監督から頼まれたものです。」
「ああ、ありがとう。」
赤司くんは余裕がある笑顔で答えていたけど、黒子くんはいつも以上に無表情だった。
「藍沢くん、また図書室で。」
『ああ、うん。』
軽く、会釈をして黒子くんは去った。
『何か怒ってた?』
「鈍いのか鋭いのかわからないな。」
さも面白いように、笑うけれど。
『後いきなり名前呼び捨てしたよね。』
「面白そうだったからね。遊羽、あまり鈍いと、いつか食べられちゃうかもしれないよ?」
吐息がかかるくらいに、詰め寄られた。
そこの女子、鼻息を荒くするな助けろ。
『食べられちゃうって、何に。』
「飢えた獣に、さ。」
『厨二病乙、赤司くん。いででででで。』
両頬を思いきりつねられる。
「腹立つな。」
『飢えた獣とか、そういう表現爆笑しそう・・・ぼふっ!』
堪えきれず吹き出した。
「貴様。」
段々言葉使いが悪くなる赤司くん、ちょっと面白い。
「・・・まあ、いい。忠告はしたからな。」
思ったよりは早く解放された。
『・・・うん?』
その赤司くんのにやにや笑いに、一抹の不安を覚えながら、図書室に向かった。
「これ、お願いします。」
『おお、またいきなり来た。』
「ちゃんといましたよ。」
言葉の端々に、少し刺があるような気がしないでもない。
『はい、部活頑張れ。』
そのまま部活に行くかと思えば。
「今日は部活ないんです。」
借りていない本を手に取り、テーブルについて読み出した。
俺も読みかけの本を取り出して、ペラペラとページをめくった。
元々、図書室なんて人が多い方ではなくて、時間が経つ内に一人、また一人と出ていき、ついには黒子くんと俺だけになった。
「藍沢くん。」
『どわっ!』
俺と彼しかいないのがわかっていてもびっくりする。
いつの間にカウンターの中に入ったんだ。
「赤司くんとは、どんな仲なんですか?」
『友人、だと思うけど。』
何でそんなこと聞くんだ。
「あの赤司くんが、名前で呼んでいて、親しげでした。」
段々、距離を詰めてきて。
あれ、こんなに圧迫感があったっけ。
「多分、特別なんですよ。」
『あ、赤司くんのことが、好きなの?』
「随分的外れな答えですね。僕が好きなのは、」
それは、黒子くんを本気にさせるには十分だった。
「君ですよ、遊羽くん。」
わかっていたのに、誤魔化した俺がいけなかったのか。
それは既に吐息がかかるなんて可愛い距離ではなかった。
『ん、・・・っ!』
流石にキスをされるとは思わなくて、ガタガタと音を立てて椅子から転げ落ちた。
「大丈夫ですか?遊羽。」
『だ、いじょぶ・・・』
名前を呼び捨てされたことも驚いたけど。
黒子くんの表情が、瞳が。
これまで俺が知っていたものとは違うことに驚いたんだ。
それはまるで。
飢えた、獣。
「助け起こすなんてしてあげませんよ。」
『痛っ、』
強めに手首を握られ、そういえばバスケ部だったんだと改めて認識した。
「好きです。赤司くんにだって渡しません。ねえ、君の頑張れに僕がどれ位救われたかわかりますか。僕のことを好きになってください。絶対幸せにしてみせますから。遊羽の口から、聞きたい言葉があるんです。」
彼は何に飢えてるんだ。
ああ、そうか。
俺に、か。
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