短編夢
ゼロキョリ(緑間生誕記念/男主/受主)
いつもの来客。
「いつ聴いても、藍沢の歌声はいいな。」
窓の外から聞こえる、俺を称賛する声。
『よー、緑間。部活はいいのか?』
俺は窓の縁に頬杖をついた。
「休憩中なのだよ。」
俺は声楽部の人間である。
部と言っても名ばかりで、俺以外は幽霊部員なわけだが。
だから権力も弱く音楽室は使えないので、1階にある普段使わない教室で歌うだけ。
『そうか。せっかくの休憩、野郎の歌声聴いて楽しいか?』
「嫌だったらわざわざ抜け出して来てない。だから、歌うのだよ。」
『はいはい。何かご希望は?』
「・・・そうだな。愛の歌。」
『ぶふぁっ!・・・そんな顔するなよ、了解。』
緑間の口からそんな言葉が出るとは思わず、つい吹き出してしまった。
睨まれたけど。
希望通り、愛をテーマにした歌を歌えば満足そうな顔。
「また来るのだよ。」
『おー、部活頑張れ。』
ほんの少し、微かに笑みを浮かべたが、休憩終了の時間が近づいているのか途中からは早足のまま行ってしまった。
『変なヤツだな。』
けして、教室までは入ってこないが彼は毎日現れる。
しばらくそんな不思議な関係を続けていた。
『今年は織姫と彦星は会えたかな〜。』
珍しく今年は七夕の日に晴れた。
そんな中、外から見知った顔が見えたが、何かに追われたように走っている。
『おーい、緑間ー?』
「っっ!」
『お、うわあぁ!?』
窓を開けた瞬間雪崩れ込むように緑間は教室に入ってきた。
そして少ししてから、女の子が来た。
「緑間くん知らない?誕生日プレゼントあげたかったんだけど。」
『・・・・・・緑間なら、さっきあっちの校舎に向かったよ。』
ありがとう、とお礼をする女の子に胸が少し痛んだが。
『これでいいのか?』
「悪かったな。誕生日プレゼントは、毎年受け取らないようにしてるのだよ。」
聞くと、返すことも出来ないのに貰うのは気が引けるらしい。
とりあえずバレないように、窓を閉め、カーテンをかけた。
『あー、教室ん中どろどろ・・・』
昨日は雨が降っていたから、地面ぬかるんでたんだろうな。
「ちゃんと拭く。」
『いいよ、俺やっとくから。それより、緑間は汗拭きなよ。あー、後誕生日おめでとう。』
俺は未使用のタオルを取りだし、緑間の頭にタオルをかけた。
その瞬間、両手首を掴まれ、キスをされた。
『・・・何、してんだ?』
「顔を近付けてくる方が悪いのだよ。」
何言ってんだコイツ。
「誕生日プレゼント位貰ってもいいだろう。」
さっき貰わないって言ったくせに。
『野郎の唇でいいのかよ。』
奇特なヤツだ。
「藍沢がいいのだよ。・・・好きだ。」
『あはは!俺も!』
まあ俺も奇特な人間だな。
毎日毎日俺の歌を聴きに来る緑間を、好きになってるんだからな。
「最初は歌に惹かれていたが、その内藍沢自身が気になって仕方なくなったのだよ。」
『ありがと。いやーでもてっきり和成と付き合ってると思ってた。』
「和、成?」
『あー、高尾。同じ中学だったからさ。』
何か変なリヤカー何だかチャリだかに一緒に乗っていたのを見たことがあるし、良く一緒にいるし。
『いい雰囲気かと。』
緑間がため息をついた。
「誤解なのだよ。後、俺のことは名前で呼んでくれないのか?遊羽。」
『はは、大好きだ、真太郎。』
「!」
真太郎が窓という隔たりを越えてきた時、思った。
何か、織姫と彦星が巡り会えたみたいじゃないか、なんて。
恥ずかしくて、言えないけど。
俺の告白にたまらないとでも言うような表情をした真太郎は、もう一度俺を引き寄せる。
ずっと前からその距離に恋い焦がれていたんだ。
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