短編夢
特別な一日(黄瀬生誕記念/女主)
今日は俺の誕生日。
楽しくとも何ともない一日。
普段より更に女子に追い回される、憂鬱な日と言っても良い。
「ってわけで影の薄い黒子っちのところに避難っス!」
「やめてください迷惑です。君のオーラは全く消えてないので無意味です」
黒子っちにゴミを見るような目で見られた。めげない。
『あの...』
大人しそうな女子の声...またか。
俺は嫌味っぽいことを言えば立ち去るかと思い、応じた。
「何スか?プレゼントなら」
『そこ、私の席、何ですけど...』
「は......す、すんません。」
隣で黒子っちが爆笑しているのが見えた。呼吸困難気味で。
『ゴメンなさい、ちょっと調べ物があって』
大人しそうだけど、凛とした、女子だった。
「ああ、いや...」
「黄瀬くん、ドンマイで...ブフ!」
心にもないこと言わないで欲しいっス。
「まあ、自意識過剰の君にはいい薬です。今日一日大変だと思いますが、頑張って下さい」
自意識過剰...まあ、確かに当てはまってるかも。
その後、何とか女子から逃げ切り部活の時間になった。
「黒子っち昼休みの時の女子って、どんな子?」
「藍沢さんですか?凄くいい方です。今日僕と藍沢さんは日直だったんですが、僕が部活あるのを知っていたので、全部やっておく、と言われました」
もちろん断ろうと思ったんですが、意外と頑固な方でした、と黒子っちは笑った。
「ふーん...」
「気になるんですか?」
「別に、そんなんじゃないっスよ」
図星を突かれたので、反論したけど、黒子っちにはバレバレみたいだった。
その後、皆から誕生日プレゼントを貰った。
持って帰るのが大変だろうと、1人1つじゃなく、1つの物を皆でお金を出し合ってくれた。その気遣いが嬉しかった。
「んじゃ、また明日っス!」
途中まで一緒に帰っていたチームメイトと別れ、1人になった。
若干早足になって歩いていたら、藍沢さんがいた。
一瞬躊躇したけど話しかけてみた。
「えーと、藍沢さん」
『!き、せくん。...あ、お昼の時動いて貰っちゃってゴメンなさい』
「え、勝手に座ってた俺が悪いんスよ〜」
申し訳なさそうな顔をされて少し戸惑った。
「えーと、何て言うんスかね。藍沢さんのことが今、ちょっと気になってるんス」
『え?』
今度は目を丸くしていた。
何だか、愛らしい。
「俺にあんま興味なさそうなとこ、とかがいいな、と」
あれ、俺また自意識過剰になってる?
『違う!...私、黄瀬くんのことが好きなの!』
「ええぇ!!」
まさかの告白!
『私も、プレゼントあげようと思ってたの。...でも、黄瀬くん凄く疲れた顔してて、申し訳なくなっちゃってあげるのやめちゃっただけなの。私もただのミーハーなファンだよ。......ゴメン、なさい』
そこまで言って、彼女は涙を流した。
「違うっス。皆俺の表情なんて見てなかった。...気づいたの藍沢さんだけっス」
『私、そんな...』
「...そういえば自己紹介まだ、っスね。俺黄瀬涼太っス。」
『え、えぇぇ?...藍沢、遊羽です...』
急に、自己紹介?みたいな顔をされたがお互いが一方的に知っていただけなので改めて聞いてみた。
まあ下の名前知りたかっただけだけど。
「ちなみに俺を好きになったきっかけ聞いてもいいっスか?」
『...先生に言われて取りに来た資料があったんだけど資料が思いの外高いところにあって...で、その時黄瀬くんが取ってくれて、や、優しい人だなぁって...』
最後の方はもう真っ赤になっていた。
もうピュア過ぎてこっちが申し訳ない位だった。
絶対気まぐれで助けたんだよな、俺。
「...俺、そんな思いやりがある人間じゃないっス。今日プレゼントくれる女の子皆鬱陶しいって思ってた位」
『...うん、ゴメンね』
「だけど、黒子っちの日直やってあげたり、俺のこと考えてプレゼントあげるのやめたり、そんな藍沢さんを...好きになっちゃったんス。...好きです、付き合って下さい」
初めてだった。
自分から告白したのは。
さっき、本音も言っちゃったから断られるかもしれない。
『...いい、の?』
「こっちから、申し込んでるんスよ?」
『......よろしくお願い、します』
丁寧にお辞儀した後、彼女が初めて笑って。
卒倒してしまう位可愛かった。
「遊羽!幸せにするっス!」
『えぇ!?』
誰っスか。
誕生日憂鬱なんて言ったの。
俺っスね。
ああ、何て奇跡!
誕生日を好きになって、君を大好きになった日。
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