短編夢
ズルい奴(森山生誕夢/男主/攻主)
ナンパしてきたが、玉砕した。
「俺は...モテたい!!」
『喋らなければモテんじゃね?』
「携帯いじりながら聞かないで!ちゃんと聞け!」
3年はもう登校日が少なく休みなので、友達の藍沢を呼び、相談したらさも興味なさそうな返事をされた。
『何十回も同じ話をされてもなぁ。』
何十回とか言うな...!
「俺がフラれてばっかりみたいな言い方はやめろ!」
『え、違うの?』
「...ソノトーリデス。」
藍沢は思ったことははっきりすっぱり言ってくるので、色々ザクザク刺さる。まあそこがいいとも思うけども。
『ははっ、まあナンパ失敗なんて良くあるし、本当に好きな子にフラれたわけでもないし、あんまり落ち込むなよ。』
最後にこういうフォロー入れてくれるから、妙にハマるし何回も相談してしまうのだ。
机に突っ伏していたら頭を撫でられた。
「お前いい奴だなぁ...」
『...そりゃどーも。』
「よし、カラオケ行くぞカラオケ!」
失恋にはカラオケで発散するのが一番!
『はいはい。』
そして、なんだかんだ付き合ってくれる。
「森山に藍沢。どこ行くんだ?」
道を歩いていたら、笠松にたまたま会って話しかけられた。
『森山ナンパ玉砕カラオケ。』
「何か悪いな。こんな奴無視して帰っていいんだぞ?」
付き合っても百害あって一利なしだぞ、と続けられた。
「二人ともヒドイ!!」
「推薦で決まってるからって変なことして取り消されたりするなよ。じゃ。」
「笠松真面目だよなぁ。」
『森山よりはなぁ。』
「だから!ヒドイから!」
ツッコミを入れたら、笑われた。
『悪い悪い。』
絶対悪いなんて思ってない。
『ほら、行くぞ。』
そして受付を済まして、部屋に入った。
『...おい、何で泣いてるんだよ。』
藍沢が心に沁みる切ないバラードとか歌ってくるのが悪い。歌上手過ぎだし何だお前。
『情緒不安定か。』
「いや、別にそうでもないっちゃーそうでもない。」
『何だ、ビビらせるなよ。』
「デュエット!お前女子側な!」
『切なくね。』
切ない。
まあいいけど、と言いながらマイクを持つ藍沢。やっぱりいい声だ。
「もう...お前女の子だったらいいのに...」
『何だよ突然。』
「優しいしさ、優しいし、優しい。」
『俺の半分は優しさで出来てる。』
「某薬かよ...」
むしろ俺は優しさだけかよ、とツッコミ返された。
「なあ!女の子にラブソングとかさ!贈ってみるのはどうかな!」
『や...やめろよ絶対。色々傷になるぞ...』
デスヨネー。流石に俺も痛いとは思った。
『そんながっつかなくても、森山は普通にしてれば普通にモテると思うけどな。』
「俺のどこが異常なんだよ...モテたいのは男子の真理だぁぁああ!!」
泣き真似をしながら藍沢に抱きついてみたが、やっぱり男はごつい。
抱きしめさせてくれたことなんてないけど、女子ってのは、柔らかい生き物らしい。
そんなことを思っていたら、やけに藍沢の心臓の音が良く伝わって来た。
「...ああ、悪い。ビックリしたのか?」
いきなり抱きつかれたらビックリするよな。
『あ、ああ。本当だよ全く。』
「てゆーかさ!俺は知ってる。この前藍沢が告られていたことを!」
『...覗き見は、趣味悪いぞ。』
呆れた顔で見られた。
「たまたまいただけだ。好きな奴いるってフってたし...まあお前に好かれてる奴は幸せだよな。まだ告白してないんだろ?藍沢に告白されたら普通OKするよな〜。」
『そうか?』
そうでもないと思うけどな、と返された。
「いや!自信を持て!そんなわけで俺にそのモテをレクチャーしてくれ、さあ!!俺を女子だと思って。」
バッと手を広げてみせた。
『あー...もう本当お前馬鹿。煽り過ぎ。』
ずっと我慢してきたのに、水の泡だ、と呟かれ、耳元で、後悔するなよ、と言われる。
『由孝...好きだ。』
「ん、む?」
何故かキスされた。いや、流石にそこまでレクチャーしなくていい。
「ち、ちょっと待て!違う、何か違う。」
『ん、何も違くないだろ?』
カラオケボックスの薄暗い感じも中々シチュエーション的にはいいよな〜と言いながら、シャツのボタンを一つ、二つと外す。
『俺に告白されたら、普通OKするんだよな?』
俺が、誰にでも優しいと思った?と、含み笑顔でソファに押し倒された。
「それは女の子だったら、って。ちょ、藍沢っ...」
『なーんてな。あんまり滅多なことは言うなよ森山。あ、悪い、母さんに早く帰って来いってメール来ちまったわ。』
お金置いとくから、先に帰るな、と言われ、カラオケボックスに俺一人が残された。
「......いやいやいや、......いやいやいや!?」
おかしい。何だ今の。
いくらなんでも冗談で人にキスしないよな!?
藍沢は、友達、だよな。だけど、何で俺の心臓はこんな早鐘を打っているのだ。
そして、ハ、と気付く。俺が藍沢に抱きついた時の藍沢の鼓動とそれは類似していて。
「う、そだろ...」
ただビックリしただけだ。そうだ。
レジで精算して、家に帰ってもずっとそのことばかり考えてしまって何も手が付かない。
0時を回った頃、笠松とか、小堀、黄瀬、早川、中村とかから、誕生日おめでとうメールが来て。
そういや、誕生日だった、なんて寝ぼけたことを思っていた。
ちょっと前に宣伝しといたのに、藍沢からのメールが無かったのが妙に寂しくて。
「...あー、もう、降参だぁ!」
明日は登校日だ、藍沢に会いに行こう。
「藍沢!ちょっと話がある。」
『...何?』
放課後、話かけたらいつもより、ほんの少し返し方が冷たい。
「ここではちょっと言い辛いから、二階の空き教室な。」
カーテンも鍵も付いてる優れものな教室だ。
『...おー。』
教室に入った瞬間、鍵を閉めて俺は藍沢に抱きついた。
『!?』
「......藍沢、ドキドキしてるな。」
『いきなり抱きつかれたら、そりゃ』
「違う。だって、俺のドキドキと一緒だ。」
俺の心臓の位置に藍沢の手を置いた。
『ば、馬鹿。やめろって!』
「やだ。...俺、訂正するよ。藍沢に告白されたら、俺だってOKする。」
『新しい口説き文句か?いいんじゃね。』
「ちっがう!俺は藍沢が好きだっつってんの!」
はぐらかされそうになったから、回りくどい告白はやめた。
『...は?』
「だ、だから。好きだって。」
これでそんなつもりなかった、ただからかっただけだったとか言われたらガチで逃走する。
『あー、誕生日なのに、俺喜ばせてどうすんの?』
「忘れては、なかったのか?」
『昨日の今日で、なかったことにしてメールなんか無理だろ。』
藍沢も、俺と同じように何も手がつかなくなる程、色々考えたのか。
『いいのか?女の子みたいに柔らかくないぞ。いい香りもしなければ、声も高くないし。』
「いーんだよ、そんなこと。だから、もう一度名前で呼んでくれ、遊羽。」
『っ、由、孝...』
俺が思い描いた青春とは少し違うけど、でもこの鼓動は多分それと同じなんじゃないかと思う。
『悪い、今止められそうにない。』
ネクタイを緩める仕草が、妙に艶っぽくて。
「い、ちおう、教室なんだけど、ここ。」
『でも、鍵かけてあるだろ?』
それとも、優しくない俺は嫌?なんて卑怯なことを聞くこの男は、多分俺限定で優しくないし、俺限定で優しいのだ。
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