短編夢
意外にも満足そうなアイツがいた(花宮/男主/受主)
「おはよう、藍沢くん。」
『ああ、おはよう花宮くん。』
穏やかに挨拶を交わす。周りの先生が、あの二人は模範生徒だな、なんて言っている。
「そんなわけねぇだろバァカ。」
『だよな。噴き出す一歩手前だった。真が模範とか超笑えた。』
「おい、ふざけんなテメェも同類だ。」
小突かれた。わりと痛い。
『何すんだよ。』
花宮真とは、幼稚園からの腐れ縁。
最初は大人しい子だと思ったが、しばらくすると本性を出し始めた。
人の髪を引っ張り、お前は俺の下僕だとか言い出す始末だった。
その時まで自分は悪いことなんてしないし自分の性格が悪いなんて思ったこともなかった。
しかし、真のその言葉で何か目覚めたのか、俺は真の特徴的な眉に指を指し、お前の方が下僕だろと言い返した。
周りの先生や友人達には一切聞こえていなかっただろう。
真は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに爆笑しだして、俺もつられて笑い出した。
その時から、多分俺たちは悪友。
『そういえば、バスケの大会はもうしばらくないのか?』
「あ?その話はやめろ。」
舌打ちをする真。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
応援に来るとか気持ち悪いからやめろと言われたので一回も行ったことがない。
「あー、んなことより、夕飯作れよ。」
『お前が作れよ。』
お前の家だろ。
「今日親いねぇんだよ。めんどくせぇ。」
『そのめんどくせぇこと毎日やってる母親に感謝しろよ。』
「イイコちゃん気取ってんなようぜぇ。」
『別に気取ってねぇようっぜぇ。』
「あ?」
『やんのか?』
お互いを睨みつける。別に喧嘩している気は一切ない。こんな言い合いいつものこと過ぎて。
『全く、エプロン借りるぞ。』
結局俺が折れて作ることにした。
「そこにフリル付きのエプロンがある。」
『使わねぇよ。』
ちらりと見たら、おそらく真の母親が好きそうな可愛らしいエプロンがあった。
『真が使え、真が。』
「ハァ?」
完全に不快そうだけど、真から仕掛けてきたので知らんぷり。
「無視してんじゃねぇよ。」
俺の肩に顔を置いてきた。
『近い。』
「うるせぇ。」
包丁を持ってるから危ないんだよ。
「何作ってんだ。」
『お前は目玉焼き丼だ。俺はオムライス。』
「おいコラ。」
何で俺だけ手抜きにしてんだと蹴られた。だったらお前が作れよ。
何だかんだで二人ともオムライスを食べることにした。
『今度真の手料理でも食わせてくれりゃいいけどな。』
「フハッ、毒入ってるかもしれねぇぞ?」
いかにもな悪人ヅラで俺の表情をうかがってくる。
『そんな自分の家で毒飲ます程、バレバレな犯罪しないだろ。』
俺がそういうと、顔を歪ませていた。
「そういう時はお前は毒なんて飲ますような人間じゃないとか言えよ。完全犯罪思いついたら実行するみたいな言い方だな。」
『違うのか?』
「・・・ハッ、お前も大概性格悪過ぎだな。」
『真に似たのかもな。』
実際、幼稚園の出来事がなければここまで開花しなかったと思う。
にやりと笑えば、真もにやりと笑って。
「人のせいかよ。」
『おー、責任取れやー。』
「じゃあ嫁に貰ってやるっていう約束でも果たしてやろうか。」
『・・・まだそんな約束覚えてんのかよ。忘れろ。』
真の本性を知る前に俺が真と結婚したいとか言った過去を、消したいのに消せない。
何より厄介なのは。
本性を知って尚、真が好きな俺だ。
「忘れるかよ。俺が唯一嬉しかった告白だぜ?」
『・・・は?』
「バァカ。意味位汲み取れよ。」
俺が間の抜けたような声を出したら、愉快そうに笑った。
『な、んでこのタイミングで言うんだ馬鹿。』
「さっきの約束思い出したからだ。ま、分かってるけど、返事を聞かせてもらうぜ?」
自信満々なその表情に多少腹が立ちながらも嬉しかったのも事実で。
『・・・今でも好きだ。』
「俺もだ。」
そして、ここからが重大なことだ、と続けた。
「どっちが押し倒す側かということだ。まあ、もちろん俺だよなぁ?」
ジリジリと俺を追い詰めていく真。
『断る!俺も押し倒したい側だふざけんな。』
「今日は俺の誕生日だろコラァ。」
そこにプレゼント用意してあんの見えてんぞ、と言われた。
マズイ、あれはギャグ用のプレゼントだ。勝手に包みを開けられた。
「・・・手錠?中々いいもんくれんじゃねぇか遊羽よぉ。」
俺が今まで見た中でも一番邪悪な笑顔だった。
「大人しくしてろこの野郎。」
『ふっざけんな絶対嫌だからな!』
もみ合いになっている内にガチャリと嫌な音がした。
俺の左手と真の右手に手錠がかかった。
「・・・鍵はどこだ。」
『俺の家だ。』
「クソが。」
『お前のせいだ。』
二人してうなだれつつも、まあ俺の家にあるわけだから、一旦俺の家に行こうと提案した。
そうしたら、まだしばらくこのままでいいとか言うものだから。
何だか照れ臭くて、次の日になる少し前に、やっと誕生日おめでとうと言える俺がいた。
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