短編夢 だけど多分幸せな一年(宮地/男主/受主) 「初詣行こうぜ。」 わりと勇気を出して言ったつもりだった。 『え、バスケ部の面々と行かないのか。』 あっさりとそう返され。 「お前と行きたいから誘ってんだよ!察せよ!」 『まーじーでー。宮地俺のこと好きだなー!』 「前からそう言ってんだろ!」 俺は、藍沢遊羽のことが好きだ。 前に本気で好きだと告白したら、俺も好きだと言われて歓喜したのも束の間。完全に友達としてだと思われていた。 鈍いにも程がある。 『確かに前も好きだって言ってくれたな。あざーす。じゃあ年末集まるか。他に誰呼ぶ?』 ちげえぇ!!お前と二人で年越ししたいんだよ。 「呼ぶな、二人で行こうぜ。」 『そうか?んじゃそうしよう。』 まあ、その時に勇気へし折られて、追撃の告白出来なかった俺も俺だ。この関係を続けるべきか、否か。 「んじゃあ、待ち合わせ時間決めようぜ。」 『んだな。あ、もし暇なら昼から遊ぼう!』 「願ってもねぇ。それで決まりだ。」 結局、昼に俺の家に集まることになった。 『楽しみだな!』 あー、クソ可愛い。 『おじゃましまーす。』 「ウチ誰もいねぇから気ぃ遣うなよ。」 『おっす。』 靴を脱いで俺の部屋に向かう藍沢。 『相変わらずみゆみゆ好きだな。』 部屋に貼られたポスター等を見てそう呟かれた。 「わっ、悪いかよ!」 『何でだよ。好きなものがあるっていいことだろー。』 へらっと笑っている。俺のこの趣味を見ると大抵は引かれるのに。 「さ、さんきゅ。」 『宮地照れてる。図体はデカイのに可愛いな。』 落ち着け俺。ここでお前の方が可愛いとか言うのはサムイ。押し倒すのは更にマズイ。 「・・・うるせぇ、轢くぞ。」 『ゴメンゴメン。』 よし、いつもの俺を演じられたみたいだ。 「年越しそばくらいなら用意しといたぞ。」 『おー、ありがとなー。』 別に何のことはない。ただ、二人で飲み食いして、日を跨ぐ前に家を出て初詣に行くだけだ。 しかし誘っておいて何だが、微妙に緊張してきた。まさか、家族全員出払うなんて思ってなかった。 『かき揚げは持ってきた。』 「かき揚げだけかよ。」 そば用意してなかったらバリバリ食うつもりだったのか。 『念のため、宮地家分持ってきたけど・・・全部食べたらもたれるから、申し訳ないけど明日あたりに食べてくれ。』 「いや、わさわざ悪いな。」 なんだかんだ気を遣ってくれたのか。 藍沢を好きになったのは何でだっただろうか。 バスケが中々うまくいかなくてくさっていた時に、ただずっとそばにいてくれた。 それまでただの友人だと思っていたけど、その優しさに段々惹かれていった。 そこからは笑顔も怒ってる顔も悲しそうな顔も全部好きになった。 「はーあ。」 『ため息は幸せが逃げるぞー。』 「お前のせいだ。」 俺の!?と驚いた顔をしていた。 人の告白大スルーしたんだからこのくらいの意地悪は許されるだろう。 「んじゃあゲームでもして遊ぶか。」 『格ゲー一択。』 「当たり前だろーが。」 大抵お互いの家に行ったら格ゲーするのがお決まりだ。 『潰す!』 「轢くぞオラぁっ!」 俺が勝って、藍沢が勝って、俺が勝って、藍沢が勝って、と終わりの見えない戦いを十分楽しんでから、年越しそばを作った。 『美味しい。』 「だな。」 笑っている藍沢を見ると、告白なんてもうしない方がいいんじゃないか。せめて卒業まで言わない方が安全で崩れないこの関係を保ち続けられると思ってしまう。 『宮地、』 「な、なんだよ。」 そのトロンとした顔やめろよ。何か違う方面の表情に見える。 『ゴメン、眠い。ちょっと寝かせて。』 「・・・ああ、俺も受験勉強で大分眠い。」 こたつの中で二人でうとうとしながら最後は寝てしまった。 多分夢を見ていた。 俺が好きって言ったらアイツも好きだって応えてくれて。 ガラにもなくよっしゃあ!とか叫んでる俺がいて。 じゃあ、いいよなと思ってキスをした。 そしたら藍沢、真っ赤になってやんの。こっちも多分真っ赤だけどな。 夢のくせにやけに感触がリアルで。 誰と勘違いしてんだとか言って、お前以外に誰がいんだよ、って。 何かおかしくねぇか。 頬を抓っても目が覚めない俺。 目の前で真っ赤な顔をしている藍沢。 どこからが夢だ。 いや、もしかして最初から夢でも何でもない、とか。 寝ぼけてた俺を藍沢がからかっていたんじゃねぇか。一気に血の気が引いた。 「っ・・・藍沢、今のは」 『お前、誰と勘違いしたんだ、よ。』 「勘違いなんか、してねぇ!」 自分でも驚く程大きな声が出た。 「お前が、藍沢が、好きだ。」 予想以上に寝ていたのかゴーンと除夜の鐘が遠くから鳴っているのが聞こえた。 ああ、ちくしょう。こんな形で告白するなんて。 新年早々フられるとか幸先悪すぎるだろ。 『俺?』 「ま、前からそう言ってただろ。」 でもどうせ後戻り出来ない。 『・・・そう、だな。前から、俺のこと好きって、』 「なっ、何で泣いてんだよ!」 『ゴメン、何かホッとしたんだ。ズルいな俺。』 そう言う藍沢に、思考が止まる。何で、ホッとするんだ、お前。 『俺も、宮地のこと、多分好き、だと思う。』 さっきの夢は俺が好きって言ったら、お前も好きって言ってくれて。 そうしたら、俺は。 「っ、よっしゃあ!」 『!』 もう、夢でも何でもない、現実だ。 だから、いいよな。 藍沢を引き寄せてキスをした。 そうしてお前も俺も真っ赤になって。 でも、その続きは、もう知らない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |