短編夢
素直な彼は慣れない(灰崎/男主/受主)
「よー、知ってたか?」
『何がだよ。』
「俺、部活辞めたんだよ。」
祥吾が唐突に、そう言った。
『え、一軍にいたのに!?』
「もうバスケに興味ねぇからな。」
祥吾は、バスケが上手かった。強豪と呼ばれる帝光の中で、一番強い一軍の中にいたのに。
「遊羽。」
『何だ、よ。』
冷えた目をした、祥吾がいて。
「お前さ、もう俺に構うなよ。」
『は、あ?』
「迷惑なんだよ。」
何だそれは。
「今まで付き合ってやったけど、別にもうお前必要ねぇし。もう話しかけんなよ。」
『祥吾、っお前!』
「馴れ馴れしく名前で呼ぶなよ。藍沢。」
ジリジリと迫ってくる祥吾。さっきまで、名前で呼んでたのに、急に名字で呼ばれたり。意味がわからない。
「友達ヅラとか、うっぜぇんだよ。」
ガンッ、と壁に手をつかれて俺は逃げ場を失った。
『っ、痛・・・!』
痛い。噛みつくような勢いでキスをされた。
「ハハハッ!気持ち悪ぃだろ?じゃあな。」
俺の傍から離れる時に、ほんの少しだけ寂しそうな悲しそうな表情をした祥吾が見えたような気がして。
だけど俺は何も言えなかった。
電話にもメールにも祥吾は出なかった。学校には以前よりまともに来なくなるし。
お前、何があったんだよ。確かに素行は悪いけどさ、でも楽しそうだっただろ。いつだって会えた筈なのに、会えなくなってしまった。
そして気付いたんだ、俺、祥吾のこと好きなんだって。キスされた時、気持ち悪くなんてなかったんだよ。
「まさかなぁ、ウチから2人も洛山に行く生徒が出るなんてな。」
卒業式の日に担任に一言お礼をいう機会があった。
『ありがとうございます。』
「まあ、赤司は順当といえば、順当だったがな。藍沢も良く頑張ったな。」
担任にそう褒められて。
「そういえばな、一回だけ灰崎が俺を訪ねてきた時があったな。お前の志望校を教えろって。」
『・・・え?』
「悪いな。仲は良さそうだったし、・・・まあ立場的には教えたらいけなかったんだけどな。断ったら殴られそうな雰囲気で、洛山だと教えてしまったんだ。」
『そ、うですか。大丈夫ですよ!』
「すまんな。ありがとう。」
何で祥吾はそんなことを聞いたのだろう。モヤモヤとした気持ちだけが残った。
洛山に入学してしばらく経った頃、赤司に会った。
喋ったことなんて、一度もないので話しかける気は全くなかったけど、意外にもあちらから話しかけてきた。
「藍沢だったか。君も帝光出身らしいな。僕は赤司征十郎。」
『あ、ああ。もちろん赤司のことは知ってるよ。』
「灰崎と仲が良いと噂を聞いたことがあるよ。」
彼は、帝光バスケ部のキャプテンだった。
「まあ、灰崎から君との関係を切ったらしいが、正解だな。バスケの才能も中途半端で素行も悪い。君に利益などない。」
『利益とか、損とかで俺は祥吾と一緒にいたわけじゃない。赤司にとっては、祥吾はそんな価値になるのかもしれないけど、全部じゃない。赤司の価値観が、全てじゃない。』
少し悔しかった。祥吾が、そんな風に言われるのは。
「・・・理解が出来ないな。」
赤司は嫌味っぽくではなく、本当にわからないとでもいうように、呟いた。
『今は、俺だけがわかってればいいよ。』
「そうか。」
納得はしてないようだったけど、これ以上は話しても埒があかないと考えたのか、そこでその会話は終わりにした。
「そういえば、今度のウィンターカップというバスケの大会で、灰崎も出るみたいだよ。」
『・・・え?だって、バスケ興味ないって、あいつ。』
「そうなのか?確かに好きということでバスケやってるわけでもないだろうが。」
全て見透かしたような瞳だった。
『・・・いい情報をありがとう。』
「やっぱり君は納得いってなかったようだね。」
ここまできて、一つの仮説が出来た。
確か、静岡の福田総合高校に行ったんだっけ。待ってろ祥吾。
『よー。青峰くんだっけ?に、激しく殴られてたな。』
「・・・・・・あ!?何でお前いんだよ!」
黄瀬くんに負けた腹いせに何か仕掛けようとして、先程青峰くんに殴られた祥吾は、しばらくのびていたので頃合いを見て話しかけた。
『一応洛山も出てるし。』
「てめぇの行った高校なんざ知るかよ。」
『嘘吐くなよ。俺の担任に聞いただろ、俺の志望校。』
「・・・口滑らせてんじゃねぇぞあのクソ先公・・・」
そんなことを言ってるということは、つまり肯定したわけで。
「何しに来たんだよ。」
『まあ祥吾に会いに来たんだけどな。』
「もう話しかけんなつったろーが。それとも何だ、こんな姿の俺見て笑いに来たってか?」
『そうだよ。』
「あ?」
肯定したら睨まれた。
『嘘だ。でも祥吾も嘘吐きだからおあいこだからな。』
「勝手なヤツだな。」
今日初めて少し愉快そうに笑った。
『俺が洛山受けるのを知って、自分が邪魔になると思ったんだろ。いつだって、祥吾は俺を守ってくれてたよな。』
二人で外歩いてたって、誰かに絡まれそうな時は俺をどこかに逃がしてくれてた。それに気付いたのは大分後で。
「そんないいヤツな訳ねぇだろ。今の試合だって観てただろ?」
『でも結局黄瀬くんのことは力づくで殴ったりしなかったよな。』
「・・・チッ。」
決まりが悪そうに俯いている。
『お前が100%善人とか思ってないけどさ。』
「ハッキリ言い過ぎだろーが。」
『俺は祥吾が好きだし、祥吾も俺が好きだろう。』
「何当たり前の顔してんだよ。ぶん殴るぞ。」
『久しぶりに祥吾が俺に触ってくれるのかー。オッケー、殴ってよ。』
「キメェ!!頭でも打ったのかよ!」
ずざざ、と後ろに下がる祥吾。
『だって祥吾のこと好きだからさ。』
「あー、もうやめろ!好きとか言うの!俺はお前がきら」
『祥吾、いいことを教えてあげよう。』
お前、表情だけは嘘吐くの下手だよ、って。
そう言うと、真っ赤な顔をした祥吾がいて。
「クソ・・・」
『強引なことしてゴメン。でも俺、』
「分かったよ。俺の負けだ。」
先ほどまで、荒んでいたような目をしていた祥吾が、ほんの少し和らいだ表情になった。
「・・・遊羽が、好きだ。」
自分の緊張の糸が切れたのだろうか。
涙がボロボロと落ちた。
洛山に受かった時だってここまでは泣かなかったのに。
祥吾がバーカ、悪かったって言ってるだろ、なんて言ってるけど、答えることが出来なかった。
『俺は祥吾いなくて寂しかったけど、お前もそう思ってた?』
まあもうそんな素直に応えてくれるなんて思ってもなかったけど。
「ああ、そうかもな。」
俺の方を見て意地悪く笑う彼は、多分一番見たかった表情だった。
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