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短編夢
とても逃げられそうにない(赤司生誕記念/男主/受主)
「赤司様!誕生日おめでとうございます!」


今日は後ろの席の赤司が誕生日のようだ。

女子は様付けで赤司を呼んでいた。彼はプレゼントを渡されたようで、ありがとうと応えていた。

うーん、慣れてるなぁ。と、そんな感じだったのだが。

今日は家の鍵を忘れてしまったので、母さんが帰ってくるまで学校で宿題でもしてようと思ったんだけど、何故か赤司も教室を出ていかない。

シャーペンを走らせているようだから、何か書いてはいるようだけど。

2つのシャーペンの音だけが教室に響いていて、沈黙がキツイ。



『・・・あ、今日誕生日なんだって?おめでとう!』



俺は後ろを振り向いて、彼にそう伝えた。


事務連絡以外は全く話したことがないので、赤司は少し驚いたような顔をしていた。


「ああ、ありがとう。」


しまった、会話が終わりそうだ。えーと、何かプレゼント。

『あっ、これ!飴あげるから!』

ポケットの中から少しパッケージのよれた飴が出てきた。


しまったー!


『ごごご、ゴメン!こんな飴なんてあれだよな!後で菓子折り渡すから許して!』


「・・・君は僕を何だと思っているんだ。」


少し不快そうな顔をされた。



『・・・ゴメン。その飴を人差し指と親指で粉々に割って、「虫ケラだな、お前は。」とか言われるかと思ってた・・・』


「・・・ふ、言わないよそんなことは。」


どんどん悪い方向に口を滑らせてしまったけれど、赤司は意外にも許してくれた。

『何もないけど、おめでとう。というか、俺の名前知ってる?』

「当たり前だ。藍沢遊羽だろう。」

『はは、ありがとう。』

「後その飴も頂いておく。」

手を差し出してきた赤司。

『よ、よれた飴だけど大丈夫か。』

「味には問題ないし、くれると言っただろう。」

『はい。』

「ありがとう。」

文武両道。整った容姿。そしてこの優しさ。


『モテるのもわかる。』

「・・・何がだ。」

『赤司は優しいなという話。』

「僕をある程度知っている人間からはあまり聞かない言葉だな。」

くすりと笑われた。

『赤司は二重人格だったり?』

「・・・そうかもしれないね。」

あ、今までただ優しい顔をしていたけど、意地悪そうな顔をした。どうやら二面性は持ち合わせてるらしい。

『・・・まあ流石に飴一つは申し訳ないから、今度改めて渡すよ。せっかく赤司とちゃんと話せたことだし、貰ってくれ。』

「もう大丈夫だ、と言いたいが、僕の頼みを一つ聞いてくれないか?」

『何だ?』

赤司から何か頼まれるなんて中々ないことだと思う。

「夕御飯でも一緒に食べないか。」

『・・・それだけ?』

「ああ。」

『わかった!』


母さんにメールを入れておく。

しかし、赤司と来たところは何か高級旅館のような敷居漂う豆腐料理専門店だった。そして個室だ。


『財布・・・足りるかな・・・』


中身を見て、不安になる。

「別に一緒に食べるのが目的だ。お金は僕が出すから気にするな。」

『いや!大丈夫だ!』

「気にするなと言っているんだ。」

急に高圧的になる赤司。怖い。

確かに最初に話しかけた時に比べると大分本性というものを見せてくれている気がする。

『あ、ありがとう。』

「それでいい。」

コース料理なんだろうか。豆腐料理が次々と出てくる。一つ一つがとても美味しい。

豆腐といったら俺は味噌汁か、冷奴くらいしか食べないけれど。

「ここは特に湯豆腐がお勧めだよ。」

『あ、本当だ。美味しいな。』

お勧めというのもあるだろうけど、多分赤司が好きなんだろうな、湯豆腐。

『本当に誕生日に一緒に夕飯食べる相手が俺でいいのか?』

「他に食べる相手も特にいなかったからな。僕は楽しいよ。」

両親とかはどうしたんだろうか、なんて多分聞いてはいけないんだろう。


『いや、俺も楽しいよ。今まで話しかけなかったのが残念なくらい。若干性格悪そうなところがアクセント効いてると思う。』


「君は口を滑らせやすいだろう。」


『ゴメン。』


一言余計なことを言ってしまう。

「・・・面白いな。」

『どーも?あ、ご馳走様でした。』

「ああ。ご馳走様。」

普段食べない豆腐料理は凄く美味しかった。


『今日はありがとう。また話しかけてもいいかな。』

「当たり前だ。僕も中々楽しい誕生日を過ごしたよ。」

帰り道にそんな話をしながら歩いていた。


「じゃあ。」

『また来週かな。』

「来週からバスケの大会があってしばらくは学校にこない。また来年だな。」

『あ、そーなんだ。応援してるよ!』

「東京だけど来てくれてもいいよ。」

さも楽しいかのように笑う赤司。

『流石に遠いし、無理だ。』

「残念だな。」


本当に残念だと思っているのかどうか。



「僕は、気に入ったものは手に入れるタイプなんだ。」

『・・・お、おう?』



「僕は遊羽が気に入った。だからもう、逃げられると思うなよ?」



瞳を大きく開けて、俺を見る赤司。

彼は、多分本気で。

「じゃあまた来年。いい年を過ごすといい。」

寒さなのか、ある種の恐怖からなのか。

一瞬体が震えるのを感じた。


来年、赤司に会ったら、どうなるのだろう。

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