短編夢
数秒後、照れ隠しに小突かれた(宮地/男主)
俺の同級生の部活仲間は、凄い。
一人はおは朝という占いを妙に信じてラッキーアイテムに執着している変人だけど、3Pシューターでその正確さといったらない。
もう一人は、その変人とは真反対な性格なのに、その変人の相棒で、コートを見渡す広い視野を持っている。
かくいう俺は、バスケは大して強くない。
中学時代はレギュラーとしてそこそこの強さだったけど、秀徳ではさっぱりだ。
「藍沢、集合だぜ?」
『んー。』
まあ、だからと言ってレギュラーを諦めたわけじゃない。
『中谷先生。』
「ん?」
『明日からテスト週間ですけど、体育館借りてもいいですか?』
「・・・まあ、藍沢の成績なら別に問題ないが、んー・・・」
先約も一人いるが、それでもいいならと言われた。
誰かと聞いても教えてはくれなかったけど。
少しでも緑間や、高尾に近付きたいと思った。
『・・・うっし。』
放課後、ほぼ誰もいないはずの体育館に足を踏み入れた。
ボールが弾む音が聞こえるので、音の方を向くと、背の高い茶髪の・・・
『宮地先輩!?』
「・・・何でお前いんだよ。」
うわー、不機嫌そう。
「さっさと答えねぇと轢くぞ藍沢。」
『ばばば、バスケの練習しにきました!!』
ちょっと返事が遅れただけで怒らないで下さい宮地先輩。
「テスト週間だろーが。勉強しろよ。」
『み、宮地先輩こそ。』
「俺は頭いいからいいんだよ。」
『俺も頭いいんです。』
「・・・あ?」
いい笑顔でボール構えられた。ボールは人を傷つける為にあるんじゃないんですよ。
『宮地先輩、俺の名前覚えててくれてたんですね。』
「当たり前だろ。」
『てっきり緑間と高尾しか覚えてないかと思いました。』
「・・・ああ、まあ、あいつらは嫌でも目立つからな。生意気だけど。」
まあ1年の中では異彩を放つあの2人は、他の1年に比べたら大分先輩に対して砕けて話してるよな。
『でも、凄いですよね。』
「・・・お前は、レギュラー諦めんのか?」
『諦めません。俺も秀徳日本一を目指してます。』
「ハッ、でっけぇ口叩くなお前も。」
自分でも少しクサイこと言ったかなと思うけど。何故か宮地先輩は嬉しそうだった。
「まあ、今日だけなら相手してやるよ。」
『ありがとうございます!』
願ってもない申し出に、俺は飛びついた。結果は負けてしまったけど。
「ま、体力はもちろんだけど中途半端な技術に驕ると良くないぜ。」
『おお、アドバイスありがとうございます!優しいですね、宮地先輩!』
あの宮地先輩から、アドバイスまで貰えるとは。
「ばっ、優しいわけねぇだろ!イヤミだよイヤミ。」
『あ、照れてますね?』
「・・・轢くぞ。」
真っ赤な顔で凄まれても、可愛いだけですよ、なんて思ったんだけど、本格的に怒られそうだったからやめておいた。
それから、ウインターカップに出るまで、宮地先輩とテスト週間だけ、一緒にバスケをしていた。
今日だけって言っていたのに、やっぱり宮地先輩は優しい。
ウインターカップは、結局3位になった。
もう、宮地先輩はここには来ないんだな。
宮地先輩。ずっと言えませんでしたが、貴方に会うたびに、俺は貴方を好きになっていきました。
『宮地先輩は、どこの大学行くんですか?』
「頭いい大学だよ。」
『じゃあ、俺も入れそうですか。』
「・・・あ?」
『俺も、頭いいんですよ。』
「・・・轢くぞ。」
大学受験舐めんなバーカ、とかそんな会話をした。
ウインターカップから、卒業式まではあっという間で。
今日は、先輩達が卒業式だった。
『宮地先輩ー。』
クラスごとの打ち上げは明日らしいので、今日は3年も含めたバスケ部で打ち上げだった。
「あんだよ。」
帰り道が一緒の俺たちは必然的に2人きりになったのだ。
『本当は、宮地先輩と、もっとバスケしたかったです。大会にも一緒に出たかったです。』
「・・・ああ。ありがとうな。」
いつもより、ほんの少しだけ優しい声。
『宮地先輩が、好きです。』
目を見て言ったら、目を少し見開いた宮地先輩がいた。
『へ、返事はいらないです。わかってるので。』
ついに視界が歪んでいって。
『ごめんなさい、卒業式にこんなこと、言って。』
「泣くなよ。・・・お前は、大学とか行くのか?」
『今のところ、宮地先輩と同じ大学に行くつもりです。』
「ちゃんと考えてか?」
まさか俺が好きだからとかそんな理由だったら埋めんぞ、なんていつもの少し言葉遣いの悪い宮地先輩がいて。
『パンフレットとか、ちゃんと大学も、見にいったしやりたいこと見つけたからです。まあ、きっかけは宮地先輩が行くからだったんですが。』
「素直だな。・・・まあそういうところ嫌いじゃねぇけどな。」
『え?』
「俺もお前と同じ気持ちだよ。」
あり得ない。こんな、展開。
「ま、返事はいらねぇみたいだから、ここまでだけどな。」
『だ、だって、あり得ないじゃないですか!俺と、宮地先輩が、・・・両思い、なんですか?』
「そーかもなー。」
『宮地先輩の口から聞きたいです!』
「お前がいらねぇっつったんだろ。」
とても痛いデコピンをお見舞いされて。
「返事聞きたきゃウチの大学の門くぐってみろよ。そしたら、言ってやらなくもねぇよ。」
なんてひねくれた人だ。
『・・・はい!』
だけど、大好きなんだ。
『・・・門くぐってしまった。宮地先輩、どこだろ。』
本当に二年後に俺は宮地先輩のいる大学の門をくぐったのだ。
「マジで来たんだな。」
振り返ると、あの人がいた。
『宮地先輩!・・・好きです!あの日の返事、聞きに参りました!』
「初っ端から、それかよ。」
呆れたような声だったけど、ほんの少しだけ柔らかく笑った宮地先輩がいたんだ。
「俺も好きだ。遊羽。」
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