短編夢
笑っていましたね(赤司/男主/受主/後編)
暗闇の中、もう一度キスをされた。
『会長、』
「・・・どうした、抵抗しないのか。さっきみたいに。」
『何かあったんですか。家とか、部活とかで。』
ひゅっと息を飲むような音が聞こえて。
『・・・最近、会長の表情変わってると思ったんです。』
全中だったか、大会の前後からおかしい。
「何もないさ。それより、この状況をどうにかしようとか思わないのか。」
誤魔化された。そんな筈ない。
『会長、泣いてるんですか。』
「そんな、こと・・・あるわけないだろう。」
『じゃあ電気付けて下さい。』
嫌だと拒まれた。
それでも、押し殺すような声が聞こえた気がした。
この、完璧と言われてる人が。
俺に固執して、俺には到底考えつかないような何かに怯えているのだろうか。
『会長、俺、貴方が、好きです。』
「・・・嘘を、吐くな。」
『もう、俺も逃げませんから。会長も逃げないで下さい。』
会長のネクタイを引っ張り、キスをした。
「っ、馬鹿か、お前は・・・」
『本気です。』
ほんの少しの時間が経ってから、電気を付けてくれた。
「・・・悪かったな。・・・いいのか、僕を受け入れるのか?」
『はい。会長のお傍にいます。』
まだほんの少し疑っていたようなので、会長が見たかったという俺の笑顔を見せた。
「・・・ありがとう。」
顔を俺の肩に埋めてくる。
少しだけど、救えただろうか。
同情で応えた訳ではないけど。
確かに、愛しいと思ったから。
その後も、会長とは生徒会室で周りにバレないように二人きりになったり。
・・・まあ、うん。
これ以上はやめとこう。
鋭い目付きは中々消えなかったけど、俺といる時は少し、和らいでいた気がする。
だけど会長は卒業して、俺が会長になって。
流石に会いに行けないので、時々電話して。
「で、どこを受験するのかな?」
『分かってるくせにー。言いません。』
「遊羽は、意地悪だね。」
クスクスと受話器越しで笑う会長の声が妙にくすぐったい。
『何かありました?』
「・・・何でだい?」
『何か、俺を強引に生徒会に入れた時みたいに、楽しそうな感じがしたので。』
「嫌味か。・・・敵わないな、遊羽には。」
大会で、負けたらしい。
楽しいことではないけど、会長の中で何か変わったのだろうか。
きっと、俺だけでは救えないと思っていた。
だからその救ってくれた誰かさんに、ありがとうございますと心の中で呟いた。
「早く会いたいな、遊羽。」
『俺もですよ、会長。』
「もう、会長じゃない。名前で呼んでくれてもいいだろう。」
『・・・遅いので切ります。』
「・・・逃げたな。」
おやすみなさい、と一言。
今更、呼びづらいし、恥ずかしいなんて言える筈ない。
そして、受験を迎え。
春になり、俺は洛山高校の校舎の前にいる。
しかし、目当ての人が見つからないので電話することにして。
『あ、会長どこにいるんですか?』
「後ろを見てごらん。」
桜が散りゆく先に、見えるあの人の影。
『っ、征十郎先輩!』
俺は、すぐに駆け寄り、征十郎先輩はきつく抱きしめてきた。
「好きだよ、遊羽・・・」
征十郎先輩、今、どんな顔してるんですか?
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