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桜の記憶 −ハナノキオク−


「お花見しませんか?」

久しぶりに街に着いた次の日の昼、八戒が突然言い出した。
「今、宿の女将さんと話してたら、街外れの小さな丘の上にある桜が丁度見ごろらしいんですよ。」
「ふ〜ん、たまにはいいんじゃねの。ちゃんと食いもんと酒は持ってくんだよな?」
悟浄が椅子の背凭れに顎を乗せた状態で八戒に同意した。
“食いもん”という言葉に反応した悟空は八戒に飛び付いた。
「マジで!食いもん食えるの!?なぁ、早く行こうぜ八戒!!」
悟空キラキラという効果音が付きそうな瞳を八戒に向けた。
「ええ、じゃあ行きましょうか。三蔵も準備して下さい。」


………………………………


一時間後、三蔵一行は街外れの桜の下に居た。
もう既に酒と食べ物を広げ花見を開始していた。
そして、悟浄がいつものように悟空に絡んできた。

「ヨッシャ!!馬鹿猿、競争でもすっか!」
「いいぜ。ぜってぇ勝ってやる!!何で勝負すんの?」
「そりゃ〜こんだけ立派なもんがあるんだからこれでだろ。」
そう言いながら、悟浄は桜の木を数回叩いた。
それを見た悟空はニヤリと笑った。
「木登りならぜってぇ負けないからな!」
悟空は挑戦的な視線を送った。
それを受け止めた悟浄は悟空を見下した。
「まあ、猿だから当たり前だろ。ハンデだよ、ハンデ。」
「何だと〜〜〜!!!」
言い争いが始まり、それをのほほんと八戒は眺めていた。
「なんか、平和ですね。」
八戒は視線を悟空達に向けたまま、三蔵に言った。
「ふん、騒がしいだけだろ。」
三蔵は素っ気なく返事をした。
それを気にする様もなく八戒は三蔵に視線を向けた。
そして、ニコリと微笑んだ。
「それもそうかもしれませんね。」

三蔵と八戒が話している中、悟空と悟浄は木登り競争を始めていた。
どちらも引けをとらない速さで桜を登って行った。
しかし、酒を呑んで居た悟浄は途中の枝に座り込んで休んでしまった。
その間に悟空はもう少し上まで登り、枝の上に立って休んだ。

すると声が聞こえると思い下を見ると八戒が酒を呑みながら此方に話し掛けていた。

「「落ちたら笑いますよ、酔っ払い。」」

えっ?
今、八戒と声と重なって違う人の声が聞こえたような………



『まぁ、此処の桜より下界のヤツの方が断然美人だがな』
何これ?
『…同じ桜じゃあないのか?』
誰?
『生き様が違うんだよ』
誰の声?
『……そうか、見てみたいモンだな』
三蔵と悟浄??
いや、違う。
これは………



不意に悟空が立っていた枝が折れた。
悟空は突然の事で対処出来ずそのまま落ちた。
三蔵の真上に。

酒を呑んでいた三蔵も突然すぎて避ける事が出来ず悟空の下敷きになった。
それを見ていた八戒と悟浄は笑いを堪えたが無理だった。
桜の木の上で悟浄が馬鹿笑いをしている。

「「ナイスキャッチ!!流石はおとーさん!!」」

八戒は必死に堪えてはいるが肩が思いっきり揺れている。
それを気配で感じた三蔵はいつまでも自分の上に乗っかっている悟空を振り落とした。
「何時まで人の上に乗ってやがんだ!!」
自分の横に居る悟空を思いっきりハリセンで叩いた。

「「何でよりにもよって俺の上に落ちるんだこの馬鹿猿!!」」


なに、これ………
なんで三蔵達の声が違う人の声と重なって聞こえんの……
だれ?
だれの声なんだよ
なんで思い出せないんだ
大切な事の筈なのに……
大切な人達だった筈なのに……


三蔵は悟空の様子がおかしいのにいち早く気付いた。
「おい、馬鹿猿。どうした。ちゃんと聞いてんのか。」
しかし、悟空は声を掛けても応えない

「悟空どうかしたんですか?落ちたとき怪我でもしましたか??どこか痛い所有りますか??」
「どうしたんだよ。おい、ちゃんと聞こえんのか悟空!」
やっと、悟空の異変に気付いた二人は悟空の側に駆け寄った。
すると悟空は弱々しく顔を上に向けた。
「三蔵…………八戒、悟浄…………………」
「悟空大丈夫でしたか?三蔵が下に居てくれたんで怪我はないと思うんですけど。」
「…………怪我とかはないから大丈夫…」
何時もの元気のある声ではなかったが返事をしてくれた事にみんな安心した。
「……………ごめん…」
悟空は呟くように言った。
「ったく、心配させんなよ。」
「怪我がなくて何よりでした。」
悟浄は悟空の真横にしゃがみこみ、思いっきり悟空の頭を荒くなぜまわした。
それを見て八戒は微笑んだ。


“…………なんか大切な事を、昔の事を思い出しそうだったんだけど全然思い出せない………とっても、とっても大切な事だった筈なのに!!”


悟空がまた俯き、思い出そうとしていると三蔵がハリセンで悟空の頭を思いっきり叩いた。
「馬鹿猿が何を考えたって無駄に決まってんだろ。考えてねえでとっとと食え。テメェが食いモン買い過ぎたんだから責任もってちゃんと食いやがれ。」
言い終わると同時に三蔵がまたハリセンで悟空を叩いた。
それを見届けて悟浄と八戒もお花見を再開した。



“なんだよ。三蔵なんかに俺の気持ちなんてわかんねえくせに!!”


「考えても答えが出なかったり、思い出そうとしてる事が思い出せねえなら今はまだそん時じゃねえって事だ。わかったか、この馬鹿猿が。」
三蔵は酒を呑みながら呟くように言った。
しかし、今の悟空には十分に聞こえた。


“今はまだ思い出さねえ方が良いって事なのか…”


「そっか。えへへへ。」
「何、笑ってんだ。気持ちわりいぞ、猿!」
「うっせ。気持ち悪くなんかねえぞ、クソ河童!!」
「なんだと〜〜〜〜…………………………………………

何時もの言い争いが始まり、何時もの騒がしさが戻った。


そんな四人を満開の桜が見守っていた………………





・†・†・†・†・

紅雪ちゃんとの共通お題『桜』で書いた小説です。

最後の方がグダグダですみません

オチが………
オチが全然書けなくてこんな感じになってしまいました。

この小説は主:三蔵一行、副:天界メンバーという風に書こうとしてました。
天界の方、出番少なくない!?
ちょっと後悔してます。



2009.08.12




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