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香蘭学園
21


雨の中、藍は制服姿で一人、フラフラと歩く。

学園近くから出ているバスに乗り、電車を乗り継ぐこと一時間。

夕暮れ時、雨は勢いを増して冷たく街を被いつくした。浬から逃げるように学園から出てきたので、傘も持っていない。

持っているのは、僅かなお金の入った財布だけ。

「俺、何も持っていないのに…。どうして…。」

口に出すと、余計に虚しさが募り、目頭が熱くなる。
浬のくれる優しさが、怖かった。それから逃げたい一心で後先構わず出てきてしまったことを後悔した。

「よく降るなぁ…。」

制服が水を吸って、足取りが重くなると、灰色の空を見上げる。

雨は止みそうもなく、藍の体から体温を奪う。

それがやけに滑稽に見えて、嘲笑った。


雨の中を行く宛てもなく歩く。

一組の家族が藍の視界に入ってきた。

―――「ママ、パパぁ、早く早く!!」

幼稚園児くらいの女の子が長靴を履いて笑いかける。

その後ろからは、そう呼ばれた中年の女性と男性が雨の中、傘を広げ少女に駆け寄ると手を差し出し手を繋ぐ。

どこにでもありそうな、幸せな家族の当たり前な光景。

何となく引き付けられ、遠い昔の自分を、あの少女に重ね合わせていた。
家族がいた頃は、考えもしない。

握り締めた手の平が汗ばむ。

起きると横に浬がいて、体温、鼓動、匂い、全てが心地良くて縋るように身を委ねていた自分。

髪を梳く指先も笑顔も抱きしめる腕も優し過ぎて、勿体ない。

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あきゅろす。
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