香蘭学園
10
藍が警戒しているのか微動だにしないで立っていると浬が手招きしていた。
「藍、来てくれないの?」
腕からは点滴の為の管。
藍を庇った時に擦りむいたのか、綺麗な浬の顔には大きな絆創膏と包帯で隠せない傷痕が痛々しい。
一歩一歩藍が近づくなり、浬が藍に手を伸ばす。
「よかった…藍が怪我しなくて…。」
ベッドサイドにポツンと置いて有る椅子に座るなり浬の胸に顔を埋めていた。
身を呈してまで護ってくれた、それは凄く嬉しい。だけれども突然知った浬の家庭環境に戸惑う。
婚約者がいたなんて初めて知った。
嘘だと言ってほしかったのに、それを認めた浬。
住んでいる世界が違うのかもしれないと思うと、自分と浬が付き合うなんて身分不相応なんだと改めて気づかされた。
「…変なコト、考えてるでしょ?」
頭上から困ったような浬の低い声。
考えていた事を読まれ、顔が引き攣ると、傷ついた腕に唇を落とし、強く抱きしめられた。
「藍は気にしなくてイイし、不安になるコトなんてないから…。」
不思議な安堵感。
もう少しだけ、あと少しだけこのままでいたい。
ワガママかもしれない、何処からか沸いて来た独占欲に似た感情に気づくと潤んだ目で浬を見上げた。
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