香蘭学園
5
当然、朔夜もキレるが、完全に日狩のペースに振り回されていた。
「…じゃ、試してみる?抱いてやろうか?」
日狩がペロリと舌なめずりする淫靡な音が耳元で聞こえると、反射的に身を引く。
「アハハ、冗談だって。」
一方、日狩の方はキレる様を楽しそうに笑っている。
なかなか掴めないキャラで困惑していた。
すっかり固まってしまった朔夜にウインクすると、
「まっ、よろしくな。オマ…じゃなくて…朔チャン。」
「…はぁ…。」
日狩にしては突然のまともな発言で唖然としていた。
朔夜の頭をフワリと撫で、笑いながら自室に入って行く。
その後ろ姿を黙って見届けていた。
絶対馬鹿にしてる。ムカツク、俺より背高くてちょっとカッコイイからって!
後々から、ハラワタが煮え繰り返るような怒りが沸々と込み上げて来るが、
『朔ちゃん』
さりげなく、最後に言われたセリフ。
なんとなく、懐かしさが朔夜の胸の内を掠めたような気がしていた。
それを思い出すと、ズキっと胸が痛む。
「朔…ちゃんか…。」
怒りが段々と収まりつつある。
昔、呼ばれていたあだ名。
大槻日狩が口にするとは思わなかった。
今は消息を絶って元気にしているのかもわからない、唯一の弟・日狩が朔夜を呼ぶ愛称。
久々に会いたい気持ちが募っていた。
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