香蘭学園
19
心身ともに傷ついたことを他から聞かされ、再び思い出してしまうことは辛いだろう。
そんな優しさも解けてしまえば無意味だ。
それともう一つ、浬自信が藍を守ることさえ出来なかった罪悪感から負い目を感じていたこと。
「悪いのは藍でなく俺だね。知ってたのに、……言い出すことが怖かった。」
「……浬…。」
藍は当然、そんなことを浬が考えていたなんて思いもよらなかった。
平然な態度の裏に苦悩していた光景を思い浮かべ、たちあがると浬に抱き着いた。
夕日がオレンジ色に二人の顔を染めると長く伸びた影はゆっくり重なっていった。
「取り合えず…腕…どうにかしなきゃだよな…。」
「う…ん。」
ここから一番近いのはもちろん藍の家だ。だが、あまりそこへ帰したくなかった。元々、浬は実家に帰る予定で連絡をつけていたが急遽予定を変更する。
「少し遠くなるがこの間のマンションでいいか?ちょっとその格好はマズイから…。」
「う…うん。」
「じゃぁ、これ。」
ヘルメットを渡され藍は素直に従った。シャツが汚れ、傷だらけの指先ではまだ見ぬ初対面の浬の親にも余計な心配を掛けてしまうと言われなくとも解せる。
「じゃぁ、ちゃんと捕まってて。」
「…ん。」
クラッチを蹴り、アクセルをあければ、二人を乗せたバイクはみるみるうちに加速していた。
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