香蘭学園
1
桜が満開に咲き誇る私立香蘭学園。
風が花びらを降らせピンク色に舞う。
中等部から高等部に進級となると、同時に外部生も数名入学してくる。
そこに、一人の少年が他の生徒に紛れて、他の生徒と同様に自分の部屋割りを見あげていた。
榎本朔夜(エノモト・サクヤ)は中等部からの持ち上がり組。
成績は上の中。
小さな体に、可愛い顔立ち、ジャジャ馬な性格が玉に傷といったところ。
今年の春から私立香蘭学園の高等部に進級していた。
学校の校舎前にある巨大掲示板の前、寮の部屋割りが貼り出され、生徒がザワザワと集まる。
「朔夜、誰と同室だった?」
昨日までの中等部時代、同寮でルームメイトだった渡辺猛至(ワタナベ・タケシ)が朔夜に話しかけていた。
「…え、ぁ…。」
久々に目にした名前に驚きを隠せない。
「ん?」
背の小さい渡辺が爪先立ちで朔夜の視線の先を見ると、
「知り合い?」
「…分からないけど、昔に聞いたことあるような、ないような名前だから。」
「ふーん。去年はいなかったから外部生だね。」
朔夜は言葉尻を濁すが、渡辺は特に気にしていない様子で、興味がなさそうに返答していた。
どうせ後々合うのだから、今、考えても仕方ないこと。
二人は踵を返すと、掲示板に背を向け、荷物を片すために寮へと向かった。
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