香蘭学園
18
薄目を開けて確認すると目の前には履き慣らした黒い革のブーツ。
このブーツを見ことがある。そして、その持ち主の名を口にだした。
「かい…り。」
「何、また泣いてたの?」
見上げた瞬間に涙腺は壊れ、せき止めてたものが崩れだす。
「ほら、泣かないで。」
ハンカチを取り出し、藍の頬を浬が遠慮がちに拭いた。
「ごめんなさい。…ごめんな…さい。」
「…大丈…夫?」
「全部…思い…出した。」
「……そう…か。」
何故か浬はあまり嬉しそうではない。頬を拭く手が止まり、藍が目を丸くさせた。
「……怒って…る?」
困惑した表情で藍がまた俯けば浬は黙ってしまう。
「……かい…。」
藍が浬の名を口にだすと、額に唇を落とされた。膝を折り、浬が藍と同じ目線になり覗き込む。
「…そりゃ、怒ってるよ。また、切ったの?」
浬の視線は一点を見つめ、深くため息を漏らした。
「……っ。」
慌てて後ろに隠そうとするが、それよりも早く浬に掴まれる。
「……本当、どうしてくれるの?こっちは心配してたけど…、心臓が幾つあっても足りないよ。」
怒鳴られる。
そう思っていただけにその言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
「…俺も…、悪かった。」
浬は真剣な眼差しで一言、漏らす。
「……。」
「知ってて、思い出させることを避けさせてた。……忘れていた方が藍は幸せだろうって。」
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