香蘭学園
15
汗ばんだ包帯に手を掛け、ほどいていく。
そして――、
次は事故ではなく故意に鋭利なガラス片で傷痕を作った。
「っ……。」
見えてきたヴィジョンは鮮やかに、偽りなく映し出していく。
(……そうだ……、これは俺が背け、なかったことにしたかったこと。)
虚ろな視線の先に幻の藍がいた。
それは忘れていた期間を忠実に再現し、笑いかける。
一度目はこの部屋で、二度目は薄暗い倉庫で。
学園に来た意味も、そこで浬にあったことも。
すべてが繋がっていった。
見たくないものは仕舞ってしまえ、忘れたかったことは忘れてしまえ。
大事な人も、全てを引き換えに忘れてしまえばいいとどこかで願っていた。
幻の藍がゆっくり近づいてくる。
目の前で立ち止まり、唇を重ねられるとまだ見えて来なかった全ての記憶が一瞬にして頭の中に入ってきた。
「あ、は…は…は。」
両手で顔を隠し笑い出す。可笑しいわけではないのに笑っていないと足元から崩れそうだった。
悲しいわけじゃない。自分の弱さが招いただけだ。
「…ごめんね…。」
溢れ出す涙の意味はなんなのかは言葉に出来ない。
けれど、人肌恋しくなる。あの温もりも忘れてはいけなかったものまで忘れようとしていたことに。
聞こえるはずのない、伝わることのない謝罪を何度も呟いた。
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